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「何を。何を今更」
兄の首筋に刃を突き付け、声を上げる。少しでも動けば刃が食い込む状況にあっても、兄は静かに弟を見つめていた。
「何故お前ばかりが私を苦しめる? 私を殺め、置き去りにして。私はお前に傷を付けることさえ出来ないというのに。不公平だ。……不公平だ」
苦しげに顔を歪める弟を前に、兄は小さく呟いた。
「確かに、僕の体を傷付けることは出来ない。それでも、殻の内なら別だろう。存外、弟に嫌われるというのは苦しいようだ」
冷えきった肩に手を乗せ、微笑みかける。兄の手も冷えていた。ひんやりとした空気が二人の肌を刺す。
「いくらでも僕を刺せばいい。今迄の償いとは言わないけれど、それで少しでもお前の気が晴れるのならば僕はそれを受け入れよう。そして少しでも僕を赦してくれるというならば……アベル、お前と昔のように暮らしたい」
その言葉が響いた瞬間、水を打ったように静まり返る。見開かれた目に滲んだ涙が頬を伝い落ちていく。くしゃりと顔を歪ませた彼は、己の肩に置かれた兄の手に触れ、不器用な笑顔を浮かべた。
「兄さんの手は冷た過ぎる」
「金属だからね。……冷たいのは嫌い?」
兄からの問い掛けに、目を伏せ息を吐き出す。不思議と荒んでいた心は鳴りを潜め、水面のようになだらかなものへと変わっていた。
「これくらいなら心地良い」
金属の手から伝わる温度は冷たくも温かいものであった。
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作者名:転生 | 作成日時:2017年4月8日 16時