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猿は手を止めて、上目遣いで私の顔を恭しく覗いた。私は猿の顔をまじまじと見ていたものだから、自然、でもぎこちなく視線がばちりと合った。私が微笑むと、猿はさっと顔を逸らした。
「俺は――、俺は、花様が幸せならそれで良いと思ってますよ。
俺にとって花様は何にも変え難い存在なんです。
小さい頃から上の人に減らず口叩いたり、男に喧嘩売るほど気が強くて、
でもとてもお優しくて、野良猫にも野良犬にもご飯をあげて、泥だらけで帰って来た俺を心配してくれて、寒い日は俺を瓦から呼んで布団に入れてくれて、
数学とかいう難しい問題をぱぱっと解けるほど頭の回転が速くて、嫌なことがあると泣きじゃくって、そして1人で突っ走ってしまう姿がとても可愛くて、
お父様の誕生日になると楽しみで朝から廊下を走り回って、俺をいつでも遠慮なく猿、猿、猿って呼んでくれて……。
あと季節の花の匂いがするんです。生け花の匂いなんでしょうね。花様の趣味ですから。
小さい頃から見てきた花様が変わるなんて俺は嫌ですから。花様が大好きなんです」
猿は頬を人差し指で幾度とかすりながら目線を泳がせ、そう言ってくれた。頬に熱でも帯びているのだろう。人は普段よりおかしいと思った部分に手を持って行く。
「それと――。俺、花様のお父様に拾っていただいたから、今、花様にお仕え出来てるんです。菅野一族には恩があると言いますか、お父様も花様も、どちらも幸せになれる選択肢をと思います」
猿は左腕で自分の鼻下を隠しながら、今度は焦点をぼやかしながらも、こちらに真っ直ぐ言ってくれた。
「――ありがとう」
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征我(プロフ) - この小説の背景画像が・・・欲しい!けどやり方分からない・・・ (2017年2月17日 17時) (レス) id: a30172f436 (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - アイアン・メイデンさん» まだまだ未熟者ですが、誉めてもらえると自信がつきますね! ありがとうございます(*^^*) (2016年1月28日 22時) (レス) id: 665ef5492b (このIDを非表示/違反報告)
アイアン・メイデン(プロフ) - コメント失礼します。作者様の文章能力の高さにすごく驚きました!自分なんて、まだまだだなぁ、としみじみ感じました。情景がすごく綺麗に書かれていて、心惹かれる様に感じました! (2016年1月28日 21時) (レス) id: 599729810b (このIDを非表示/違反報告)
月影櫻詠(プロフ) - レイチェル・ハジェンズさん» そりゃないぜハジェンス (2014年12月30日 12時) (レス) id: a24476e1ca (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - 月影櫻詠さん» ゆーあーくれいじー (2014年12月29日 23時) (レス) id: fc7cab67c2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ナンシー・ハジェンズ | 作者ホームページ:
作成日時:2014年6月12日 22時