【ハク千】大切なモノ[第一篇]【千と千尋の神隠し】

思い出せなくて ページ4

千「どうして泣いているの？」


止まらない。


千「ねえ……」


涙が止まってくれない。


懐かしくて
愛おしくて
とてもとても大事な何か。

それが私を呼んでるような気がしてならなくて。


でも、分からない。


胸が苦しくて息もできない。
足の力が抜けて、千尋はその場に座り込んだ。


千「わけわかんないよ…」


あなたは誰？
どこにいるの？どうして私を呼んでいるの？


頭が痛くなる。
引越してきたその日から、時折繰り返される
この苦しみ。


引っ越す前の大好きな友達？
それとももっともっと前に出会った大切な人？

それとも…それとも…


千「思い出せないよ…」


知ってるんだ。
その人の声も匂いも名前も顔も。


千「思い出せないの！！！」


そう、思い出せない。

いや、、知らないんだ。


きっと気のせい。

知らない。

気のせいだもん。

何にもないもん。


千尋は強引に自分を落ち着かせて、
涙を堪えた。


もう5年、だ。
引っ越してからそろそろ5年。

正確な日付は覚えていないが


5年間絶えず私を呼ぶ声。


何度泣かされたことか。


千「なんなの、本当」


少し苛立ってしまっている千尋が立とうと
足に力を入れた時、


家の電話が鳴った。


千「もしもし？」

父「あぁ、千尋。やっと出たね。何回もかけたのに。」


千「そうなの…ごめんなさいお父さん。で…どうしたの？」


父「お母さんからなんも聞いてないのか。」


千「あ、今日お父さんもお母さんも家に帰れそうにないってことなら聞いたよ？」


父「いや、実はね。ついさっきお母さんのお爺さんが亡くなったらしくて。」


千「ええっ、ひいおじいちゃんが？」

ひいおじいちゃんとは一度も話したことがなくて、写真でしか見たことがなかったが
怖そうな人だった。


父「ああ。それでお通夜とお葬式にお母さんと行くことになったんだけど、千尋は学校もあるし遠くまで行くと大変だから…」

千「いや！！私も連れてってよ！」

父「馬鹿言うな、頼むから。三日間くらい留守番できるな？」


千「………わかった。」


父「うん、お母さんの仕事終わったら明日できるだけ早く家に車取りに行くけど
学校行く時間と被ったら会えんな、すまん千尋。」

千「うーうん…気をつけて……」

千尋は重々しく受話器を置いた。
寂しい日がまだまだ続きそうだ。

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