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「ちょっと歩いてきていい？」
そう言う彼女に、その無理に作った笑顔に。
引き止めることが出来るわけが無い。
笑顔で、ええよ、と答えて。
やった、と言う彼女は本当に嬉しそうなのだ。本当だ、本当に、本当に嬉しそうなのだ。
でも。
その背中はどこか寂しさを感じさせて。
守ってやりたいと思うけど、そうしようとすると彼女は拒むだろう。
「...失敗した？」
「......いや、最初は楽しそうやったから。なんか嫌な事でも思い出したんかもしれん」
少し先を歩く、彼女の。
オペレーターに選んでもらったという、彼女によく似合う洋服を揺らしながら歩くAは。
センラがあげたヘッドドレスと、俺が付けたイヤリングは彼女がくるくると回る度に、僅かな光を反射させてキラキラ煌めいて。
遠い、遠い人になったようで。
「まーしぃ、覚えとる？ウチの星に連れてくるお姫様の条件」
「あぁ...、『幼い頃にお姫様に憧れて』、『人を見抜く力があって』、『周囲の人々の記憶から消すのが楽』な人物、やっけ」
"周囲の人々の記憶から、彼女の記録を消す処理が簡単"。
それは、とても残酷な理由で。
今も楽しそうに星空の下を歩く彼女は、簡単に人々の記憶から消えていいような人間じゃない。
─────消す方の、俺が言える言葉ではないけれど。
それでも、少し、生きる事を難しく思っていた彼女に。
周りが当然にしている行為を、辛いと感じた彼女に。
少しでも。ほんの少しでも、希望を分けてあげられたら。
「周囲の人々から記憶を消すのが楽、っていうのはさ。あんま人と関わってけぇへんかったって事やろ？」
「...家族とも上手くいってへんかったみたいやしな。彼女が脅威と認識してた人間の数に比べて彼女を知る人間の方が少なかったし、ずっと怯えながら生きてた人間の、標本みたいやった」
あの"桜"という綺麗な花を、彼女は忌々しそうに見ていたことを思い出す。
何も彼女の事を知らなかったあの時。
「周りに自分を肯定してくれる人が誰もおらんかったんやろうか、なぁ」
俺達とは、正反対だ。
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作者名：#N/A | 作成日時：2021年5月31日 19時
