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「──まずいな。そうなると」
「…あー、Aに携帯渡しときゃよかった、かもな」
緊急事態となればそれで連絡を取ることも叶わない、だろうが。そらるさんとあの獣人の少年は連絡を取ることは可能、なのだろうけれど。
彼も携帯を取り出したものの、画面を見つめたまま指を動かせずにいた。全てが俺達の予想だ、何も確信を得られないまま連絡するわけにもいかず。
「いや。まだそれが本当だと決まった訳じゃないし──人を傷付けるような子じゃない、はず、だから」
詰まった語尾、彼の表情が一番この事態に対する彼の感情を一番物語っている。想定外の事柄、動揺、あの彼に対する信頼の間に揺らいでいる。
俺達二人は、何よりAの無事を一番に考えているが。彼はあの少年を大切に思うからこそ、私情に、私怨に任せて人を傷付けることはして欲しくないと思っているのだろう。
「俺は『その人のことを頼む』ってまふに言った、よな。それを反故にするような子じゃない──それに。アイツは賢いから、自分と彼女が、育ってきた環境や扱いが一緒だったって気付く可能性だって十二分にあるんだよ、な」
自らに言い聞かせるようなその言葉。今まで冷静だった彼が静かに、それでも確実に取り乱しているところを見て逆に冷静に、落ち着きを取り戻してきた。
そうだ、今ここでアンタが冷静じゃなくなって困るのはこちらの方だ。
「──その子のこと、信じてる？」
俺に向けられた、鋭い瞳。その深い青の奥底には混乱が見て取れる。一度だけ目が合い、すぐに落とされたその視線。鋭かったそれは次第に和らぎ、彼が深く息を吸って、吐いた後に口は開かれた。
「あぁ、信じてるよ──懐いてるとかじゃないな、対等に。対等に、信じてるよ」
強くなった語気、彼は俺達に背を向けてまた先へと歩き出した。弱弱しいその背中はやがて強い足取りへと、最初見たあの掴みどころのない飄々とした、余裕のあるあの姿へとやがて変わり出す。
「今からしに行く話はまふとAさんには聞かせるべきじゃない。あの二人と合流する前に済ませる」
少しだけこちらへ向けた顔、表情はもう、先程の余裕なさげなものではなく。何かを決心したような、それでいてどこか優しさを含むような──頼りがいがあるものへと、変化していた。
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作者名：#N/A | 作成日時：2022年3月11日 22時
