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ぺたぺた、と手すりの上を器用に歩く彼。私が置いたマグカップを倒さないように、と手でそれを包むと興味を示すように首を傾げた。
「…ホットミルクだよ。ぬるくなってると思うけど…飲む？」
マグカップを見つめていた彼は私の顔を一度見て、また視線をマグカップに戻して。少し減っていた中身を飲みやすいようにと傾ければ、彼はマグカップに顔を近付けてちろ、と舐めだした。
ホットミルクの温度は文字通り猫…猫舌な彼にも丁度いいくらいにぬるくなっていたようで、一度舐めた後は大丈夫だと感じたのかすぐに顔をマグカップの中に突っ込んでしまった。
私は彼が着ているパーカーのフードや紐がマグカップの中に入ってしまわないよう、後ろから服を軽く引っ張ったりしつつ。
彼はしばらくすると満足したのか、マグカップから顔を出して「けぷ」、と小さく空気を吐き出した。こういうところは相変わらず子猫みたいだ。
自分の顔の周りについたミルクを舐めたり手で拭いながら身支度を整えた後、ピンと背筋を伸ばして彼は私に向き直った。
「……ふふ、まだ残ってるよ」
彼の鼻の頭にはまだ白いミルクが残っており、それを白衣の袖でぽんぽん、と拭えば何を勘違いしたのかすりすり、と頬を私の手に寄せてきて。
可愛いなあもう、とそれについつい乗ってしまい彼を両手でふんわりと包んで撫でる。気持ちよさそうに喉をゴロゴロと鳴らす彼は本当に猫のようで…いや、猫、なのかな…？
とにかく、可愛らしいことに違いは無い。ふわふわとしている彼の毛を撫でながら「起きちゃったの？どうしたの」と聞けば、彼は閉じていた目をハッとして開けてこちらをじっと凝視した。
「ん？」と見つめ返せば、口を一度開けて「にゃう…」と鳴いた彼。手を離して様子を伺えば、上目遣いで何かを躊躇している様子。
しばらくして、私を見つめてぱくぱくと何か口を動かして。猫の口だからあまり何を言おうとしているのかはわからなかったけれど──
「…お・え・ん・え？」
母音だけ、一緒に発音したら合っていたらしく。私がそれを口にしたあと、こくりと頷いてぴょん、と一飛び。
急に距離を取られたことに驚き、へっ、と声を漏らすと彼は一度心配そうにこちらを振り向いて。でも、その声は届かなかった、いや聞こえなかったかのように彼はベランダからひとっ飛び、一瞬にして視界から消えてしまった。
「…まふくん！寒いから風邪引かないようにね！」
…私の言葉は、彼の背中に届いただろうか。
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作者名：#N/A | 作成日時：2022年3月11日 22時
