17.無能 ページ21
重い扉をあければそこは、月の光が降り注ぐ最上階だった。何やら只事ではないその様子に、皮膚の表面にピリッとした緊張感が走る。
隣のまふくんもしっぽの毛が少し逆立っていて、この空気の重さを感じているらしい。
私達は当初予定していたらしい、そらるさんと落ち合う予定だった場所に着いたのだが。そこには彼らの姿はなく、大きな耳をぴくりと動かしたまふくんによって居場所を突き止め──今、扉を開けると遠方に彼らの姿を発見することが出来た。
だが、そこは主に沈黙が支配する──それでも氷点下の、冷戦が繰り広げられていた。
「何度も言うが、こちら側の要求を飲むつもりは無いと」
「あぁ、そのつもりだよ──国に属さない、自警団などに従うつもりは無い」
初めに聞こえたのは、おそらく彼が慕うそらるさんの声。その次に聞こえた聞き覚えのない声は──真っ直ぐ、最奥にいる人物から。
それは、式典や写真でしか見たことがなかった──研究棟の、現トップの姿だった。
「そうなればこちらも実力行使に出ざるを得ないな。国の機関を私物化して残虐の限りを尽くすなど、到底許されることでは──」
「…あぁ、そこにいるのは誰かと思ったら──居なくなったモルモット2匹、じゃないか」
そらるさんの言葉を遮って、放たれたその言葉。気付けば視線はこちらに向けられており、心底愉快そうにその瞳は細く。口は、弧を描くように歪められていた。
ぞわり、と背筋に寒い何かが走って咄嗟にまふくんの前に立つ。
「…A」
ぽつり、と呟いたその声は、センラくんのもの。何故か、少し切羽詰まったような感情が込められている。
あの研究棟のトップだけじゃない、皆の視線が私達に向けられる。それに少しだけ、足が竦む。遠い正面にあるあの含みを持たせた笑顔が不気味で、眉を顰めた。
「まさか2匹共一緒に戻ってくるとは思わなかったな。まったく──アルビノの猫はあの集団の差し金だったそこの人間の仕業だろうが、貴重な被検体はまさか淫魔風情に連れて行かれてしまうとは」
「君もそういう──薄汚い連中のクチか？」という言葉に、前方から「は？」という小さな声、同時に金属の擦れる音。
うらたさんの「おい」という誰かを制止する声がその後に聞こえたから、多分誰かが銃を引き抜いたんだろう。
その様子を僅かにも気にする素振りなど見せないまま、正面の男性は続け様に口を開いた。
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作者名：#N/A | 作成日時：2022年3月11日 22時
