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厨房に着き、中の様子を伺うと先に見た際とあまり変わらないようだった。
相変わらず志麻さんが一人で何かを調理している。
なんとなく入りづらい。
「あれ、Aちゃんやん。おはよう」
「あ、坂田さん。おはようございます」
「ここで話するんもアレやし、中入りぃや」と促されて厨房内へと足を運ぶ。中にいた志麻さんもこちらに気が付いたようで、「お、A。おはよ。坂田〜、ちゃんとメモ持ってきた?」と坂田さんの方へ歩いていく。
「おはようございます。メモというのは…?」
「前料理長のレシピのことやよ。ちゃんと持ってきたで〜これやろ?」
「サンキュー、これで仕上げができるわ」と志麻さんは紙をひらひらさせながら奥の食材が並んでいるスペースへ引っ込んでしまった。
坂田さんが一緒であれば少し話しやすいかな、と思っていたが機会を伺う隙も無かった。
ただそれより気になる単語が、
「あの、坂田さん、前料理長って──────」
「あ!2人ともちょっとそこで待っといてくれるか?もうちょっとで試作品ができあがるから」
「オッケー、楽しみにしとくわ」
びっくりした。
一度奥に行ったと思っていた志麻さんがこちらを覗いて機嫌がよさそうに笑っていた。
料理を振舞われるのかもしれない、ということは避けられているわけではないのかも。
そう思い安心して近くにあった椅子に腰かける。
「Aちゃん、なんか言いかけてたけどどしたん?」
「あ、いえ。やっぱり大丈夫です。それより…私、どれぐらい寝てました?」
入ってきたばかりの人間が内部事情に首を突っ込みすぎるのもあまりよくないかと思い、とっさに方向転換をする。
坂田さんはポケットから懐中時計を取り出してうーん、と唸ってから答えた。
「大体8時間ぐらいしっかり寝てたんちゃうかな」
「そ、んなに寝てたんですね私。外が明るくなっていないのでてっきり2、3時間ほどかと…」
え、と彼が言葉に詰まったのを不安に感じる。
何か変な事でも言ってしまったのか?ごく普通なことしか言っていないと思うのだが。
「ここ、ずっと夜のままやで。知らんかった?」
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作者名:#N/A | 作成日時:2021年4月22日 21時