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「…うん、旨い」
「ありがとうございます」
志麻さんも…最近見た中では一番の笑顔だ。
自分の腕前を過信してしまうほどに、彼らに美味しいと言ってもらえることが嬉しかった。二人の笑顔に安心し、私もいただこうとナイフで柔らかいお肉を切る。
ほんのり赤みが残ったそれを頬張ると口の中に肉汁が広がる。一緒に作ったソースも完璧に合う仕上がりだ。
「む、まーしぃ、La Cèneの話」
「そやな、何から聞きたい?」
うーん、と頭を悩ませる。
書物をただひたすら読み漁って形のない状態の疑問を成形していくつもりだったから、具体的に何が知りたいかと問われればその答えはすぐには出てこない。
「あー、具体的になんか知りたいってわけじゃなかったんよね。Aが最近よく夢を見るから、それって俺たちの成り立ち的にどうなん?ってなって」
「─────夢?」
「そうなんです。ここに来てから…経験したことがあることも夢に見ますし、全く知らない場面が夢に出てくることもあります」
腕を組んで眉間にしわを寄せる彼は、「夢…、夢、なぁ」と夢を見ること自体に引っかかっているようだった。
「やっぱそこ引っかかるよな、俺多分夢見たことないで」
「まあ、坂田が眠るときは深い睡眠を永遠に続けてる可能性もあるわな」
「なんやそれ」
ケラケラ、と笑う志麻さんにぽかん、とした坂田さん。そもそも夢について調べようとしたことがないから、仕組み自体を知らないのだろう。
あの時も、私が話した夢を見る仕組みについて「なるほど」と話していたことから、あまり詳しくないのは明確だ。
「俺…も、記憶────みたいなもんの光景を何度か繰り返し、同じものを見ることはあるけど。あれを夢っていうかどうかはわからんなあ」
顎に手を添えて唸っている彼は、しばらくした後「あ」、と何かを思い出したように前を向いた。
「他の奴は知らんけど…、センラは『最近、夢よく見るんよな』って話しとった気がする」
「じゃあ人によるって事?」
「そうかもなあ、というかセンラとA、何かと共通点ある気ぃするし。なんとなくやけど納得」
センラさん。私が持っている懐中時計の元々の持ち主。
今もベストのポケットに入っている懐中時計の蓋を撫でると、和柄の装飾が指越しに伝わった。
「まあ、後────La Cèneについては、そうやな」
彼は記憶を辿るように左上に視線を向け─────記憶の粒を紡ぐように口を開いた。
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作者名:#N/A | 作成日時:2021年4月22日 21時