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「もう慣れたみたいやな」
「おかげさまで。志麻さんも、お疲れ様でした」
「おう、お疲れ。……ごほーびに、ってソルベ用意したんやけど。食べる?」
瞬間、パッと輝く彼女の顔。やっぱり、甘いものが好きみたいだ。
コクコク、とうなずく彼女に思わずこちらの頬が緩んでしまう。かわいらしいその頷きに、じゃあ、と厨房へすぐ行こうと手を引こうとした時。
「A〜!」
坂田。何かを察知したのか真っ先にこちらに飛び込んできた。
最近は彼女のおかげで感情が殆ど…いやもう全てに近く、育ち切った筈なのに出会った頃の純粋な性格そのまま彼女の前では振舞っている。
彼女についてまわっているせい、というかそのおかげ、とでも言えばいいのか。俺の中では複雑だが、書庫で彼女に付き合って様々な本に触れることによって"知る"ことを覚えたような…俺と二人で話している時は最近真っ当な事や鋭い意見を言うようになったのに、Aと一緒の時は純粋そうな顔をして最近ボディタッチが増えたような気がする。俺が彼女の頭をよく撫でていたことを知っての対抗かなんだか知らないが。
コイツ、本当に坂田か?
「わっ、坂田さん、お疲れ様です」
「おつかれ〜、二人共どこ行くん?」
「志麻さんがソルベをご馳走してくださるって────」
「え!?」なんて坂田も坂田で目を輝かせている。
俺とAが一緒にいることが気になって飛んできたようだが、俺の料理はなんだかんだ好きなようで、彼の目的はいつの間にか「ソルベを食う」にすり替わっている。
それでいいのか、と苦笑しながら三人で厨房に向かった。
──────
「んまあ〜、てかこんな種類いつの間に用意してたんや…」
「空き時間に、ちょっとな」
ちらり、彼女の方を盗み見ると満足そうに笑っていた。予想通り、なんて。
「てかなんでソルベなん?アイスとかシャーベットじゃなくて」
「あー、この前ドライフルーツ食わせたときあったやろ?そん時に『フルーツ好きかな』って思ったからさ」
スプーンを口にくわえて彼女はコクコク、とうなずいている。ソルベが口の中からなくなったのか、「おいしいです!」と笑顔で一言。可愛い。
「あ!そう、ドライフルーツ!」
「んえ、なんや急に」
「いやドライフルーツやって。あれも俺用意してたん知らんかったんやけど。てか俺もドライフルーツ好きやからもっと欲しい」
包み隠さず直球で言ってきた彼に、思わず笑ってしまった。
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作者名:#N/A | 作成日時:2021年4月22日 21時