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コンコンコン、と壁を叩く音が後ろから聞こえた。その音に振り向くと、入口付近に部門シェフの方が手紙を一通、持って立っていた。
「ご歓談中失礼します、料理長。次のお客様の日程が────」
「あぁ、すまん」と志麻さんが立ち上がり、彼の元へと歩いて行った。
「...やっぱ結構スパン空いてきたな」
「お客様、少ないんですか?」
「んー、この間と比べたらまあ、早い方やけど。最近少ないんよね」
ぐーっと伸びをして、坂田さんは立ち上がり自分のお皿と、もう食べ終わっていた志麻さんのお皿を持ってシンクへ運びに行った。
私も、と少しだけ残っていた白身魚を口に運び、自分のお皿を持っていく。
お皿を洗い始めた坂田さんの隣に立つと「はい」と水洗いしたお皿を渡され、それを坂田さんからは少し遠い位置の食洗機へ入れる。
「La Cèneはそもそも、一回亡くなった人が天国とか...そういう死後の世界に行くまでに通過する場所、らしいから...亡くなる人が減った的な?」
「いえ、それは...」
「ないよな、俺でもわかるわ」
お皿を並べながら、ふとここに来たばかりの時のことを思い出す。
現世と幽世の狭間にある、選ばれた魂のみが辿り着くことができるレストラン─────それがLa Cène。あれは彼らが皆"神様"と呼ぶ存在の声だろう。
「......そういや、うらさんが生きた人の信仰から生まれたとか言ってたような───?」
「わり、皿置きっぱやったな」
「んあ、ええよええよ」と近くに来た志麻さんに笑いかけながら、坂田さんは次のお客様について話をするように促した。
「大体二日後だな。ゆっくり休んどきや」
「それはこっちのセリフなんやけど...まーしぃ、またぶっ続けで作業してたやろ」
「...あー」
「ほら!誤魔化せへんで!俺が部屋戻ってから数時間後に厨房行ったらまだおったん覚えとるからな!」
えっ、と思わず口から声がこぼれる。「Aからもちゃんと休むように言うてや!」と坂田さんから言われ、その通りだとしっかり休むように勧める。
明後日の方向を見ながら言い訳を探すように頭をかいている彼の顔を覗き込み、
「身体を壊したら元も子もないんですよ、お客様がいらっしゃる際は料理長は休めませんから...ね?」
「────、おう、そう、やな...」
一瞬、驚いたような表情をした彼は、でも、とこれだけは。と改まって言葉を紡いだ。
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作者名:#N/A | 作成日時:2021年4月22日 21時