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「ごめん遅なった〜」
「おー、坂田のは冷めたやつな」
「はあ!?えっ、ちょっとそれは無くね!?」


冗談やって、とケラケラと笑う志麻さんにそっと近付いて、「何かお手伝いできることはありますか?」とそれとなく聞くと、大丈夫やから座っとって。と私の頭にぽん、と優しく触れた後にテーブルを指して微笑んだ。

……この間と比べると多分、驚きは無いけれども、少し恥ずかしさが残る。
この間の、前の────コーヒーを淹れた時の事は、志麻さんが何も触れようとしないから私も黙っているが...あの後から少し、距離が近いような。

触れられても不思議と嫌な感じはしないことから特に拒否はしていないのだが、この恥ずかしさが今後も襲ってくるのかと思うと少し、ちょっと、いやかなり、なんだろう...苦しいような、嬉しいような、温かいような。

少し、困る。「はい」、と小さく返事をして椅子に座った。
先にテーブルに着いていた坂田さんに「どしたん?」と不思議そうな顔で問われたが、なんでもないです、と誤魔化すように微笑んだ。


「はいお二人さん、おまたせ」


コトン、と目の前に大きなお皿が置かれる。
中心にはこんがり綺麗な焼け目がついた白身魚が。付け合せの野菜と一緒にかかっているソースが差し色になっており、見た目も美しい。

自分の分を持って戻ってきた志麻さんがテーブルに着いた。彼が食べ始めるのを待っていたが、「そんな礼儀とか気にしんで、温かいうちに食べて」と言うのでじゃあ、と手を合わせた。


「は〜、おいし...」
「...ん、ソースがすごく魚と合ってますね」


やろ?と得意げな顔で笑う彼に、坂田さんが何かに気付いたように声を上げた。


「あ、このソースこの間作ってたやつか」
「そうそう、あの後これ振る舞う機会が無かったやろ?やから今の空いてる期間に丁度ええなって思って」


この間、というのは。志麻さんが何か作っていた記憶を引き出す────、

初めて会った時、だろうか。
そういえば、あの時彼が作っていたソースはこの色だったような。
あの時も...彼の態度が不思議ではあったが、今それを特に気にする様子もなく話題にあげているのだから、二人とも何とも思っていないのだろう。
実際、今まで志麻さんは私に普通に接してくれている。


「...A、美味しい?」
「はい、すっごく美味しいですよ」


もう一度、小さく切った魚を口に運ぶ。ポワソンの美味しさに思わず目を細めた。

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作者名:#N/A | 作成日時:2021年4月22日 21時

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