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私、坂田さんにコーヒーの淹れ方を教わった後にコーヒーを淹れる夢を見た筈なんですよね。と彼に告げると「なるほどな、それならあるのかも」と納得すると同時に、なんだか嬉しそう。
あの夢もあの夢で、何か違和感を感じたような気もするが。
夢はあまり記憶に残らないのか、断片的な事しか思い出せないようだった。便利な身体だと思っていたが、全てが都合よく行くわけではないようだ。
「でも、ここの────La Cèneのことについて書かれた書物もあるんですね。知らなかったです」
「うん、確か右奥の方にあったと思うんやけど」
読んでみたい?と聞く彼にそうですね、読んでみたいですと素直に返す。
じゃあ、と今度時間がある際に探しに行こうと約束をした。
あれ、そういえば彼は何故私を探しに来たのだろう。
「あの、坂田さん。ところでどうしてここに?」
「……あっ、せやった。すっかり忘れとった」
彼はベストのポケットから懐中時計を取り出して時間を確認すると、「あ、そんな時間経ってへんな」と小さく呟いた。
これぐらいやったら怒られんやろ、と安心したように言う彼に疑問を覚えつつ、彼が口を開くのをおとなしく待った。
「そうそう、まーしぃが魚焼いてくれたからさ、Aも一緒に食べよ〜って呼びに来てん」
なんと。志麻さんがお魚をご馳走してくださるらしい。それは急いで行かなければ。
早く行きましょうと坂田さんを急かすとなんだかちょっと不満そう。
「そのテンションの変わり方、俺と話してるんよりまーしぃの作ったご飯食べたいって言ってるみたいでなんかもやもやするなあ」
「そ、そんなことは無いですよ。でも最近坂田さんとはよくお話したりしているので!たまにはいいじゃないですか、志麻さんが作ったご飯も」
「うん…まーしぃの作ったご飯美味しいもんなぁ…」と宙を見る彼は志麻さんが焼いた魚の事を思い出しているのか、すっとこちらを向いて「やっぱ俺もはよ食べたくなってきたから早く行こか」なんて言うものだから、思わず吹き出してしまった。
笑いを隠すように行きましょうか、と先導するも「笑うことないやん!先に食べたいって言うてたんAの方やろ!」と。
どうやら誤魔化せていなかったらしい。
だって────と隣を歩く彼に言い訳を並べてみたり。先程の少し怒ったような顔から笑顔に変わる彼を見ながら、冗談を言い合えるような仲になったことを素直に喜んでいる自分がいた。
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作者名:#N/A | 作成日時:2021年4月22日 21時