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瞬間、甘みが口の中に広がる。
通常のブルーベリー...の味は知識でのみ知っているが、それと比べると随分甘いように感じる。
通常のドライブルーベリーと想定していたものとは少し違い、丸くてふっくらしている。
志麻さんの手作りなのだろうか、粒が大きくて美味しい。思わず笑みがこぼれ、幸せな気分になる。
「志麻さん!これ、甘くて美味し──────」
瓶に手を伸ばして彼の方を見ようとした、その時。
顔をあげると、すぐそばにあった紫の瞳。
動揺するように揺れているその煌めきに心を奪われる。
その瞳は私ではない誰かを映しているようで、その奥底に見える"何か"を好奇心が探るように真っ直ぐと見据えた時。
...頬に手が添えられていることに気が付いた。
「し、志麻さん、どうしたんですか」
「え」、という彼の間の抜けた声に、彼の方こそ意識が抜けていたように感じた。「すまん、何でもない」と素早く身を引いた彼は机の上に置いていたコーヒーカップを私が持ってきた際に机に置いたトレイに乗せ、「ごちそうさん、美味かったわ」と。
ぺたり、初めて会った時と同じ笑みを貼り付けた。
これ以上何も聞くなという事なんだろう、私も先程の出来事に対して多数の疑問が浮かびはするが、早く出て行けと言わんばかりの雰囲気に押されトレイにドライフルーツを詰めた瓶を一緒に乗せた。
「えへへ、ドライフルーツ、ありがとうございます。コーヒーと一緒にいただきますね」
「おう、じっくり味わってな。あと30分ぐらいで戻るわ」
個室のドアを開け、その場から退く。
去り際に見た彼の顔は、先程とは違って柔らかな笑みを浮かべていた。
厨房へ戻ると、個室に入る前とは打って変わって静まり返っていた。
コーヒーを淹れた場所まで戻ると、「おー、Aちゃんおかえり。ちょっと遅かったな〜って...なにそれ?」傍にあった椅子から立ち上がり、私の方へと歩いてきた坂田さんにドライフルーツの瓶を見せる。
「ドライフルーツの詰め合わせです!志麻さんからいただきました」
「えぇ!めっちゃいいやん...まーしぃこんなん隠し持ってたんか...」
「おいしそ〜、一個貰ってもいい?」と聞いてきた彼に、「どうぞ」、と快く瓶を開けて勧める。
「あの...さっきと違ってすごく静かですけど、皆さんはどちらへ?」
「んー?んん、志麻くん待ち。最初に貰った指示は下準備でもう終わったから、いつもこんな感じになるんよ」
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作者名:#N/A | 作成日時:2021年4月22日 21時