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「私が淹れたとお分かりになるのであれば、違う味がしたのでは...」
「それはAが『坂田が淹れたものと同じ味がするかどうか』って聞いたからわかった。ほんまに一緒やから。大丈夫」
このコーヒー、一番しっくりくる味を坂田に何度も調節してもらい導き出した味のはずなのだが。
俺達は"既に人ではない"から全く同じものを同じ者が何度も作成するのは可能な芸当かもしれないが、別の者から見聞きしたことを一度で全く同じものを再現するのは難しいはずだ。
彼女の方がまだ少し不安げな表情で、表情とはちぐはぐな「よかったです」という言葉を返してきたものだから、何か信用して貰えるようなものがないかと一考する。
あ、そういえば。
目当ての品を思い出して立ち上がり、後ろの棚を幾つか開ける。確かこの辺りに置いておいたはずだが。
「ん、あった」
「ドライフルーツ、ですか?」
「そうそう、ここにベリー系の瓶があって...オレンジとかパイナップルもあるな」
「へえ、たくさんありますね。デザートに使用したりするのですか?」
「そうそう、そうなんだけど」
と、小さな瓶複数個を机の上に置き、彼女の顔を見る。
「コーヒー入れてくれたお礼、ごほーび。好きなの持ってって食べていいよ」と俺が言うとドライフルーツがたくさん入っている小さな瓶をじっと見つめていた彼女は、目を少し見開いた。
目に映る光が増え、まるで流れ星が彼女の瞳に流れるように煌めく。
「い、いいんですか?」
既にカナッペを食べてもらった際と同じ顔をしている。
彼女がここに来てから甘いものを食べさせた覚えはないが、もしかしたらこういった甘味が好きなのかもしれない。
「どうぞ」と返したものの、瓶を色々と手に取りどれにしようかな、どれにしようかな、と可愛らしく迷っている。
コーヒー片手にいつまでも見ていられそうだが、今はそんな暇は無いので仕方なく。
「迷うんやったら空き瓶一個あげるから、ちょっとずつ入れて持っていきや」
「いいんですか!?」と今までになく嬉しそうな顔。
棚から空き瓶を探し、彼女に手渡す。顔をほころばせたAはドライフルーツを少しずつ空き瓶に移している。
「いっぱい持っていき、坂田にも食わせといてや。あと...今一個どれか食うて感想聞かせてくれへん?」
こくこくと彼女は頷き、「ブルーベリー、いただきますね」と一番傍にあったそれを一粒掴んで口の中に入れた。
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作者名:#N/A | 作成日時:2021年4月22日 21時