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志麻さんから頂いたカナッペをじっくり観察する。
口に入れると軽やかな音を立てて崩れそうなさっくりと焼かれたクラッカー、かわいらしく絞られたサワークリームに薔薇のように美しく飾られたサーモン。
どれをとっても最高峰のアミューズだ。
「上にディルを乗せてるけどさ、これうらさんのレシピ見たらフレンチタラゴンとかをハーブバターにしてクラッカーに混ぜてそこでハーブの風味出すのもええかもしれんな」
「それもありやな…今焼いたクラッカーだけ一応単品で食ってみる?これはチーズやけど」
真剣な表情で話す彼らは料理人そのものだった。
不思議となんとなく理解できるその会話に、多大な情報がまるで記憶のように私の頭にねじ込まれた、というのは嘘ではないのを実感する。
坂田さんに習って自分も一口でカナッペを口にする。
「美味しい…!」
「やろやろ!?やっぱまーしぃの作る料理は最高やねんて」
「何でお前が得意そうやねん」
先程まで真剣に話し合っていた二人の輪に入れてもらえたようで少し、心が温かくなったような気がした。
「もう一個食べるか?」と志麻さんに勧められてそれに手を伸ばす。
もう一度、カナッペを口に入れて味わう。その美味しさに思わず顔が綻び、頬が緩む。
ふと、視線を感じるような気がして顔を上げると坂田さんと志麻さんが嬉しそうに微笑んでいた。
「どう…しました?」
「え?いやあ、美味しそうに食べるなあって」
「それはもう、美味しいですから」
いやいやそういう意味やなくて、と坂田さんが手をビシッ、と前に出す。多分、ツッコミという動作。
あまりどういうことなのかわからなくて、不思議に思っているとまあまあ、と志麻さんが話に入ってくる。
「旨そうってメチャクチャ思ってる、って顔して食ってもらえると料理人冥利に尽きる、ってこと」
「表情ですね?しっかり感情が出ていたのでしょうか」
ロボットみたいなこと言うやん!と笑われてしまった。自分の感情が上手く表現できるように、と向上心を持って確かめてみたかっただけなのに。
少し不満に思い「もう一つください」と志麻さんが持っていたお皿からカナッペを掠め取る。それすらも特にやり返し、なんて効力があるわけではなかったようで志麻さんにはまた笑われてしまった。
ただその顔がなんとなく嬉しそうで。不思議だな、なんて疑問をしばらくの間抱えていた。
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作者名:#N/A | 作成日時:2021年4月22日 21時