:00 ページ2
すっかり日も暮れて本日の業務が終了した頃、ホールへ向かったついでにポストを確認すると、一通の差出人不明、洋型2号サイズの封筒。
青の封蝋が押された封筒をまじまじと裏表を返し観察しながら、その手紙の宛名の人物がいるであろう書斎へ向かう。
長い廊下を歩きながら、"自分の記憶とされているもの"を思い出す。
封蝋が押された封筒はたまに届くのだが、この封蝋は確か、このレストランを実在するものとした幽世の創造主が使うものである。
ただ、青色の封蝋は初めて見たような気がする。こちらへ呼び出される際に埋め込まれた記憶を引っ張り出すと、「新しくレストランに就任するスタッフがいる際に送られてくる封筒」、だったような。
表面右下に丁寧な筆記体で書かれた「Shima」の宛名を再確認し、書斎のドアを3回ノックして断りを入れてから入室する。
お目当ての人物は予想通り、書斎の真ん中にある机で分厚い洋書を読みながら自らの作る料理に頭を悩ませていた。
「まーしぃ、これ」
ポストに投函されていた差出人不明の、ただ確かにそれは俺達の雇い主であろう幽世の創造主から送られた封筒を渡そうとする。
彼は一度こちらを向いて俺が掲げる封筒を目にしたが、すぐに自分の手元に視線を戻して
「あー、ごめん、もうちょいで突っかかってるとこ出てきそうやから後にしてもらってもええか」
と余裕がなさそうに答えた。
前『シェフ・ド・キュイジーヌ』が行方をくらませてから彼がその役職を引き継いだのだが、その時からずっとこの調子である。
急な事だったからそんなに焦らなくてもいいのに、とこちらは思うのだが、彼としてはそうもいかないようで。
必死に前料理長へ追いつこうと毎日レストランの営業時間が終わり明日の仕込みを終わらせても自室へ戻らず、こうやって書斎に足を運んでは様々なレシピ本や前料理長の残したメモを読み漁り、自らの技としようとしているのだ。
仕方なく彼がそれを読み解き終わるのを待っていたが、やはりこの中身は気になる。
先程前料理長が行方不明になったことは記したが、それと同時期に俺達と同じ役職であった副料理長、スー・シェフのうちの一人も行方が分からなくなっていた。
92人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:#N/A | 作成日時:2021年4月22日 21時