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「いきなり何をするの、」
「ん?口止め料」
「そんなの言い訳です。また逃げるんですか。この辺、歓楽街近いし危ないのに高校生1人で住むなんて可笑しすぎる」
「佐藤くんも危ないよ?だって、こんな可愛い顔してるし。物好きに食われるかもね」
ケラケラ笑いながらポケットに手を入れて煙草を取り出した。
やはり生真面目な佐藤くんは叱ってきたが、煙草が無いと理由は話せないと根拠も無い言い訳をすれば呆れ、煙草を奪おうとした手を引っ込めてくれた。
「家族が嫌いなの。血の繋がらない家族がね。繋がらないって知った喪失感が大きくて、それから他人にも周りの何もかも興味が無くてさ」
不意に吹いた風のせいで、在らぬ方向へたなびく紫煙をぼんやり見つめて私は過去を語った。
思えば、誰かにこうやって話したのは初めてだ。
真っ当に生きてきたのであろう佐藤くんは、重たい話の数々に固唾を呑み喉を鳴らした。
私はというと話をつまらなそうに聞いていた煙草の先が短くなったので、床に投げ捨てサンダルの底で踏み潰した。
これ以上、昔話はしたくない。
話を畳む意味も込めて強く、地面にめり込むように潰し煙草の息を止めた。
「いろいろ事情があるのは分かりました。でも、曲がりなりにも高嶋さんを育ててくれたのは義母さんたちですよね?」
「そーいう正論聞きたくない」
「それでいいんですか?」
「いいから家を飛び出したんでしょう」
「ならどうして、学校を辞めないんですか」
佐藤くんの癖の無いか細い声が、私の核心に突き刺さった。
これだから真面目な人は苦手だ。
まっすぐ過ぎて、物事をすべて見通していなければ落ち着かないから。
「……まだ、普通だった頃に戻りたいからじゃない」
曖昧だが嘘でもない。
そんな返答をして佐藤くんの真っ新な雰囲気に気分が悪くなって今日は帰ってもらうことにした。
佐藤くんがわざわざ持って来てくれたプリントを片手に家に入り、それを丸めて捨てた。
私は孤独に飼いなされていたい、それだけ。
俗世に希望などもう無いのに、無理して周りに合わせる必要など何処にもないと自分を今日も甘やかす。
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miU(プロフ) - おかえりなさい!これからの更新楽しみにしています! (2018年4月25日 7時) (レス) id: b909dcbe9a (このIDを非表示/違反報告)
Ryrie**(プロフ) - みうさん» みうさん、ありがとうございます。これからさらに落ち着かなくなるような展開を考えていますので、是非最後までお付き合いくださいませ。 (2018年1月13日 22時) (レス) id: 3c581ac854 (このIDを非表示/違反報告)
みう - どきどきして心が落ち着きません!続きを楽しみにしています! (2018年1月7日 23時) (レス) id: b909dcbe9a (このIDを非表示/違反報告)
Ryrie**(プロフ) - カグラさん» カグラさん、ありがとうございます。まだまだ序盤ですがこれからも見てくだされば幸いです。 (2018年1月5日 22時) (レス) id: 3c581ac854 (このIDを非表示/違反報告)
カグラ(プロフ) - ずっと待ってました!この世界観が好きで更新するたび楽しく読ませてもらってます(о´∀`о)これからも待ってます! (2018年1月4日 14時) (レス) id: 55da401ce9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅島 | 作成日時:2017年9月20日 16時