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「フウマさんは何を買うんですか」
「特に買いたいもんは無いけど。お前は?」
「うーん……とりあえず服かなぁ」
最寄りのバス停までは片道5分だが、緩やかな坂の中腹にあるので少しだけ足が重たくなる。
それとは相反して気の抜けた会話が、まだおはようが通じる日中の空気にすぅっと溶けていく。
私はちらり、横のフウマさんを一瞥した。
銀色の髪を揺らし歩く彼の表情はまだ眠いのか、それとも外出に乗る気じゃないのかぼーっとしている。
私だけが楽しければいいのではない。
彼も、楽しいと思っていてほしい。
そう思っていると無意識に、私の足は動かなくなった。
不審に思った、半歩前を歩いていたフウマさんが振り返る。
逆光でよく表情は捉えられなかったが、私の事を見ているというのは分かった。
「どうした?」
「……フウマさん、本当は嫌だった?」
「何が」
「外出するの……だって、楽しくなさそうだし」
おずおずと尻すぼみに呟くと、フウマさんは呆れたように笑った。
「俺はAが楽しいならそれでいーよ、まだ眠いだけ。無駄な心配なんかすんな」
「でも、」
「細かいことは気にすんなって。ほら、バス来ちまう」
フウマさんが強引に私の腕を引き、坂道を歩いていく。
その手は冬の寒さが嘘のように暖かく、華奢な指先と厚い掌が優しく私のことを包んでくれた。
これ以上彼の機嫌を伺えど、きっと私が楽しければいいのだという一点張りであろう。
諦めて、彼の影を踏むように後ろを歩いた。
そうして古びたバス停に辿り着くと、タイミングを見計らっていたかのようにミストグリーンを纏った見慣れたバスが停車した。
朝とも昼とも言い難い時間だったので、車内は人の多い地域を回ってきたとは思えないほどがらんとしていた。
二人がけの席に座り、バスが動き出すとフウマさんは大きな欠伸をひとつした。
車体の揺れが、心地良い眠気を誘ってくる感覚は分からないでもない。
左にはフウマさんが居るので、私は右側の車窓を眺める。
緩やかに流れていく時間にぼんやりと身を委ねていると、急に肩に重みを感じた。
私の肩に、ふわりさらり柔らかなものがかかる。
「……フウマさん」
「着いたら起こして」
フウマさんは私の肩に寄りかかり、瞼を閉じてそれっきりなにも話さなくなった。
私はその可愛らしい寝顔を見ながら戸惑いたように頷き、逃げるように窓に視線を移した。
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miU(プロフ) - おかえりなさい!これからの更新楽しみにしています! (2018年4月25日 7時) (レス) id: b909dcbe9a (このIDを非表示/違反報告)
Ryrie**(プロフ) - みうさん» みうさん、ありがとうございます。これからさらに落ち着かなくなるような展開を考えていますので、是非最後までお付き合いくださいませ。 (2018年1月13日 22時) (レス) id: 3c581ac854 (このIDを非表示/違反報告)
みう - どきどきして心が落ち着きません!続きを楽しみにしています! (2018年1月7日 23時) (レス) id: b909dcbe9a (このIDを非表示/違反報告)
Ryrie**(プロフ) - カグラさん» カグラさん、ありがとうございます。まだまだ序盤ですがこれからも見てくだされば幸いです。 (2018年1月5日 22時) (レス) id: 3c581ac854 (このIDを非表示/違反報告)
カグラ(プロフ) - ずっと待ってました!この世界観が好きで更新するたび楽しく読ませてもらってます(о´∀`о)これからも待ってます! (2018年1月4日 14時) (レス) id: 55da401ce9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅島 | 作成日時:2017年9月20日 16時