よく頑張りました。 ページ11
咄嗟に体が動く。
私の体は、今までにないくらいに早く先生の元へ向かっていた。
先生の体が床に触れる寸前のところで先生を抱きしめた。
そんなに力がない私は一緒に倒れこんでしまったが、先生の頭を床に打ち付けることは避けられた。
『先生!先生ッ...!!』
本当に保健委員をやっていてよかった。
面倒くさかった救命救急講習会も、今は出てよかったと心から思う。
とりあえず先生を床に寝かし、呼吸の確認をする。よかった、呼吸はある。
「だ、大丈夫なの?」
さくらが焦ったように私に聞いた。
先生が病気であること、言ってもいいんだろうか。
...いや、まだ私の口からは言わないようにしよう。
『とりあえず呼吸もしてるし死んではないよ。
疲労で気を失ってるだけ。...だから止めたのに。』
私が自分のブレザーを脱ぎ、先生の枕代わりにしていると視界の隅で隼人が気まずそうに下を向くのが分かった。
「なにか私に、できることある?」
『ありがとさくら。
とりあえず、怪我の治療...あー、いいや。このハンカチ濡らしてきてくれない?』
怪我の治療をしなきゃ、と言おうとしたけど救急箱は準備室の中だった。
開けることはできるけど、そしたら皆も入って来ちゃうだろうし。
わかった。と言ってさくらが駆けていく。
私は先生の重たい前髪を掻き上げ、もう片方の手で随分と顔色が悪くなってしまった頬を撫でた。
『...よく、頑張りましたね。』
きっと今この先生に掛ける言葉はこれが正しいのだろう。
体はずっと痛むのに、辛いのに、私たちの為に懸命に授業をする先生を心から愛おしく思った。
その時、さくらが濡れハンカチを持って戻ってきた。
お礼をいいながらそれを受け取り、先生に付いた血を傷口に触れないように丁寧に拭いていく。
ハンカチは先生の血で所々染まったが、それも良いと思った。
とにかく今は、この人から離れたくない。
「...先生、ずっと具合悪かったの?」
私の隣に腰を下ろしたさくらが、私に聞いてきた。
私は返事をする代わりに少し俯いた。
先生の病気を打ち明ける勇気を、私は持っていなかった。
「そんな素振りは見せてなかったけど。ねえ、アンタは気づいてたんでしょ?」
「...どっちにしろ、こいつはもうこれで終わりだ。」
香帆は答えない私を見て隼人に問いかけたけど、隼人もはっきりした答えは返さなかった。
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真弥(プロフ) - ついつい作品の世界に入っちゃうくらい文章力が凄くて驚きです…!!とっても面白いです!更新頑張ってください!!楽しみにしております! (2021年7月20日 20時) (レス) id: 7cac5604e8 (このIDを非表示/違反報告)
蒼炎 - 更新待ってます! (2020年5月30日 13時) (レス) id: 874e279780 (このIDを非表示/違反報告)
莉子 - 更新楽しみにしてるので、頑張ってくださいね!ずっと待ってます! (2020年2月16日 22時) (レス) id: 5f56a1975b (このIDを非表示/違反報告)
柊一颯LOVE - ゆあさん» 私はゆあさんの感想を見ましたよ私はゆあさんの感想を見て良かったです私は柊一颯が大好きです (2020年1月6日 13時) (携帯から) (レス) id: 0760400581 (このIDを非表示/違反報告)
アオイ - 更新まってます!! (2020年1月5日 19時) (レス) id: 5386a12f84 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:、りょうやん。 | 作成日時:2019年8月3日 3時