夢現 2 (ページ10)

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『中島課長と行かれたんですか、この居酒屋』

『ええ。私が誘ったの。あの時よ、貴方が中島くんが話あるみたいだって連絡くれた時の。その時に行ったの』

私の視界はブルーライトに直接目を破壊されたかのように、霞む。

婚約者さんが婚約者である菊池さんを誘う前に、中島さんを誘ったという事実。

菊池さんは確かに婚約者さんのことを好意的には思っていないようだったし、彼女もそれがわからない程配慮の無い女性ではない。

だとしても。だとしてもだ。

『どんな話をされたんですか？』

私は思い切った質問をした。

何故興味があるのかと問い詰められればこちらの負けではあるが、何も気にせずに吐いてくれればこの先も質問がしやすい。

今自分がしていることが、この追求が良いことではないのではと軋む良心は確かにあった。

でも、あの人は言っていた。

本当に手に入れたいものがあるなら、ちょっとぐらい強引にならなくては、と。

彼女は素直すぎるのか、何も考えていないのか──普通に会話を続ける。

『何話したかな。あ、でも2回目の時は風磨との馴れ初めの話なんかしたわね』

『馴れ初めですか。さぞ幸せな話だったのでは』

『馬鹿ね、政略結婚に幸せなんて確証されてないわよ』

『そうなんですね……すみません、つかぬ事を』

『別に。……ああ、あとそれから寝たわね』

それはいとも簡単に彼女の口から零れた。

私だって辿った事だったし、中島さんだって好きな相手を愛そうとするだろう。

なのに、どうして。

どうして執着するのだろうか、この話題に。

『じゃあ今週末、仕事終わりに』

そんな気持ちをかき消すように、私から話題を切ってラインを閉じ、ゆっくり背面から再びベッドに横になる。

しかし言葉にされた事実が脳裏を支配する感覚は、横になるくらいではどうやら消えないらしい。

思えば、私も成り行きで菊池さんと朝を迎えたことを中島さんに伝えた事がある。

あの時の私も先程の婚約者さんのように、自分が満たされているからと軽率に言ってしまったのだろうか。

「……あの時中島さんは、何て思ったんだろう」

ああ見えて冷酷な彼は淡々と流したのか、それとも本当は傷つき苦しむ弱い人だから素直に受け止めてしまったのか。

中島さんは私を利用しているだけ、という建前を忘れてそんな空想をしてしまう。

そんなはずがないと、どうにか振り切ろうとする度に、ずぶ濡れの彼を思い出してしまうのが苦しかった。