夢現 2 (ページ9)

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頼まれ事をどう消化するか、を考えるほどに、どの角度から見ても私には出来ない予感しか湧かない。

アパートの一角、狭い自室でソファ代わりになっているベッドに着替える間もなく身体を委ねた。

真っ白な天井が、この状況でいい策が浮かばない私の脳内を投影しているようだった。

「婚約者さんの様子伺えって言ったって……」

婚約者さんが気に食わないとため息をつく姿ばかりが浮かんでは消える。

それもそのはず、菊池さんという相手が居ながら私に探られるのだ。

不愉快だろうし、菊池さんに対して婚約者さん自身が彼を疑うことになってしまうのは苦しいことだ。

誰がどう言おうと、視線で恋文を渡そうとしても、本人が手続きしない限り婚約は絶対に破棄されない。

婚約者、という言葉は見た目とは裏腹に重たく深い繋がりであることを実感してしまうと、やはり婚約者さんに顔を合わすのが気まずくなる。

「……もういっそ、普通に婚約者さんを誘えばいいか……」

横になった身体を壁側に転がし、スマホを開いたら彼女のラインに食事の誘いを入れる。

口実らしい口実が思いつかなかったので、『久々にお食事したくなりました』と無けなしの直球な文章を残した。

婚約者さんは返事が早い方ではないので、食事会は後日になるのだろうとスマホのカレンダーを眺めていると、コロン、と音がした。

通知だ。婚約者さんから。

私は身体を起こしてラインを開いた。

『是非。最近ちょっといろいろあって、休みがとれないからちょうど良かった。今週末とかどうかしら』

『いいですね。今週末なら空いてます。店どうしましょうか』

『それなら私におすすめの店があるわ』

彼女の自慢げな声がしそうな一文を残した後、画面に1枚の写真が添付される。

暖簾や看板を見る限りは、居酒屋であろうことは分かった。

『居酒屋ですか。婚約者さん行くイメージ無かったです。何か、新進気鋭のシェフのフレンチとか食べてそうで』

『どんなイメージよ(笑)。私だって居酒屋行くわよ。やるせない時にはピッタリだもの』

『失礼しました』

『別にいいわよ、気にしてないから。前に中島くんにも言われたのよね。意外って』

意外、と感じたのはこちらの方だった。

いや、これを意外と称するにはあまりに粘度の高い感情のように思われた。

急に現れた2文字に酷く動揺する私を、勿論知る由もない婚約者さんの文章から、上機嫌な婚約者さんの声がするような気さえした。