夢現 2 (ページ14)

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迎えに行くと、彼女は来ると分かっていたのに素っ頓狂な声を出し、目を丸くさせていた。

きっと彼女に、この世のありとあらゆるドッキリを仕掛けても、いつも新鮮なリアクションを見せてくれるのだろう。

そんな彼女の座るテーブル周りには、空になったグラスが数個ある。

相当飲んでるな、と苦笑する俺とは裏腹に、彼女は気分が良さそうだった。

「隣、いいよね」

「いいですよ～ぉ」

だらしなく笑って彼女は隣の椅子を引く。

酔って潰れかけでも、礼儀や常識やらの類を捨てない彼女らしさが、ほんの少し愛らしい。

「どんだけ飲んでるの、山本サン？」

「だって～、飲まないと～自分のこと忘れられないじゃないですかぁ！」

「急に怒り出したな」

「婚約者さんの話聞いてるともやっとして～菊池さんのこと考えて……苦しかった」

「……え？」

突然の発言に頭が回らない俺を他所に、彼女は感情が壊れたように泣き出した。

酒を飲むと口が軽くなる人もいるらしいが、彼女もそうだと言うのか。

この高校生並みに甘酸っぱいこれが、彼女の中に潜む気持ちだとしたら、それは。

「……完全に、ヤキモチじゃん、それ」

「もういっそ嫌ってください！！菊池さんは探れって言ったのに、私情恋情挟むとか問題外でしょ！！ねぇ！！スパイ失格！！」

「わ、分かったから……」

ヒートアップする彼女の暴れっぷりは、いくら賑やかな居酒屋でも目立っていた。

こちらまで恥ずかしくなって、何とか彼女を宥めようとしたのだが、酔った彼女は手がつけられず仕方なく代金を支払い店を出た。

パーキングエリアに停めた愛車の後部座席に乗せると、彼女は秒で目をとろんとさせる。

潤んだ瞳は、夜の街のきらめきだけ映して揺れている。

「……落ち着いた？」

「菊池さん……」

「ん？」

「……さっきまでのは忘れてね………」

それだけ言うと、力尽きたようにぐったりと眠りについた。

何事も無かったかのように安眠する彼女がつまらなくて、何となく鼻をつまむと変な声が出た。

「ははっ、」

その顔が変で笑ったのも束の間、また寝顔に戻る。

凛と澄ましたその寝顔は、いつものころころ変わる表情とはまた違って大人の顔をしていた。

「……ずりぃよ……お前」

優しくて素直で真面目で。

俺が失ったものを全部持っていて、全部欠けている俺を好きでいる。

好かれてるのが奇跡みたいだ、と柄に無く考えると、夜更けが来るのが忌々しく思えた。