061 side you ページ12
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「だって、風磨は全然私に見向きもしてくれないんだもの。他の女性が相手なら、来る者拒まずで関係も持つくせに、私にはキスすらまともにしてくれない」
何故こんな話を私にするのだろう、と。
その意図を読み取ろうとしても、次第に虚ろな目になっていく彼女の姿が視界に入るだけ。
「どんなに求めても応えてくれないし。あれ、私ってそんなに魅力ないかなぁ…なんて柄にも無く落ち込んだりして」
何かに想いを馳せるようなその横顔は、肌艶も悪くやつれて見えた。
「________だからあの時、口ではあんなこと言いながらも、心の何処かで嬉しさがあったの」
「………あの時、って…？」
「中島くんと寝た時、よ」
躊躇うことも無く、淡々と紡がれたその言葉に、私は思わず息を飲む。
そして同時に、菊池さんと繋がったあの夜の事を、頭の片隅で思い出していた。
「まぁ、後からどうしようもない程の罪悪感に苛まれたけど。あの瞬間は、ほんの少し……幸せだったのかもしれない」
「……この空間には今、私と彼だけ…みたいな」
「そうそう。上手くは言えないけど、多分そんな感じね」
誰かを一途に愛し続けることは素敵だけれど、それでもやはり、人は“愛される”ことを願ってしまう生き物だ。
そして願わくば“両想い”になりたいと神に祈る。
「中島くんが社長になれば、私は彼と結婚することになる。そうすれば…それなりに幸せになれるかも、って感じたわ」
「その割には、あまり嬉しそうじゃありませんね」
「だって、中島くんが社長になれば、風磨の居場所が無くなってしまうでしょ？」
「そんな…少し大袈裟じゃないですか？」
「大袈裟なんかじゃないわ。風磨はずっと、“跡取り”として親から必要とされることに自分の存在価値を見出して生きてきたのよ」
何だか、またしても世界の違いを痛感した。
良家に生まれた人の苦悩なんて、私には想像の仕様もないから。
「存在価値を見出せなくなった時、きっと彼は壊れてしまうわ」
「それって、菊池さんを心配してるんですか？それとも…同情だったりとか」
「さぁ、どっちかしら。_____でも、1つだけ言えるのは…心配も同情も、“愛する相手”だからこそ抱く感情ってことね」
あぁ、そういうことか。
結局のところ、菊池さんも婚約者さんのことを“愛している”んだ。
何だか、全てが馬鹿みたいに思えてきて、私は軽く自嘲することしか出来なかった。
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作者名：Ry-Hok | 作成日時：2018年4月4日 21時
