【◇】銀木犀 6. (ページ13)

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257話ページ13

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彼はやっぱり優しい人だった

そんなのはちょっと前から知っていたことだけど

今改めて心の底からそう思えた

それこそこうして話すようになる前は

孤高の天才というか、一匹狼で上から目線でクールな人とか

勝手なイメージを持っていたけれど

あの日、怪我の手当てをお願いされた時から

少しずつ今とは真逆すぎるイメージが離れていった

A｢(全然そんなことはなかったな)｣

A｢(成宮くんは何倍も優しくて、純粋なんだろうな)｣

最悪だ、頭が痛いだとか考えていたけれど

あたふたと焦りながら心配してくれる声を聞いては

そんなことはどうでもよくなって

背中に触れた手は思わず目を見開くほど優しかった

鳴｢ごめんね、Aちゃん｣

謝らなくていいのに

謝りたいのはむしろこっちの方だ

こんな私にこうして寄り添って、優しくしてくれて

心配をかけてしまってるのに

心のどこかで嬉しいと思ってしまっている自分が嫌だった

A｢ありがとう｣

優しくて

いつも一生懸命で、真剣で

隣で笑いかけてくれる

そんなわけないとか色んなことを考えて否定して

怖くて逃げようとしたけれど

話せば話すほど、一緒にいればいるほど

新しく感じることがどんどん増えて

知らなかったことを知ることが増えていく

まるでジェットコースターのように

感情が上がっては下がってを繰り返す

言いたいのに言えないもどかしさ

これら全てをまとめてなんと言うのか聞かなくたってわかる

鳴｢もう家目の前だからさ、ちょっと大変だろうけど立てる？｣

A｢…………うん｣

差し伸べられた手はひと回りくらい大きかった

この手で何度も何度も頑張って、努力して

夢を追いかけてるんだって改めて気づく

A｢(ああ、ほんとに……なんでかなぁ)｣

今すぐ寝てやりたいほどしんどいのに

ずっとこの時間が続けばいいのにと思ってしまう

帰りたくない、この手を離したくない

どうしようもない我儘ばかりが胸を埋める

A｢(壊したくないし、すっごく怖くて仕方ないのに)｣

A｢(もうどうしようもないくらい好きになってた)｣

今あるものを壊してまで伝えたいとは思えなくて

そのはずなのに気持ちはどんどん大きくなっていく