【◇】銀 木 犀 .

29話 ページ29

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A









話そうって言われたのは嬉しい。

けどいざ話すとなると

なにを話せばいいのか全くもって分からない。

聞くとしたら…








A(やっぱり…野球のこと？)








野球のことしか頭に浮かばなかった。

全然話したことの無い私ですら成宮さんが野球ですごい成績を残してるのは知っている。

たしか…なんか異名？肩書き？みたいなのあったけど、思い出せない。

なんか難しいカタカナだった気が…。









A(お父さんが読んでるスポーツ紙で写真みたけど…別人だよね)








去年の東京大会の記事を目にしたことはある。

甲子園出場が決定しでかでかと一面を飾っていた。

その時の写真は今とは違う。

例えるなら獲物を狙うような、そんな目をしていた覚えがある。

とにかくこの教室にいる時と全く違う。









A(野球のこと聞いてみよう、その方が成宮さん話しやすいよね)








今度はもう少し大きな字で書こう。

でもどんなこと書けばいいんだろうか。

野球のことって決まったけど

何を聞いたらいいのかこれまたさっぱり。









A(やってるのって投手…だったよね)

A(とりあえずもうなんでもいいから書いちゃおう！！)









もうこういう時は後先をあえて考えないことにした。

考えてたら授業が終わる。









A(よし、これでいい)








書き終えた文章。

といっても大したことじゃない。









成宮さんは野球部のエースなんだよね


やっぱり甲子園は緊張した?


突然こんなこと聞いてゴメン









こんなことしか書けない自分が恥ずかしい。

緊張って…みんなするものじゃないの？とか言われたらどうしよう。

でも書いたし、消すのも勿体ない。

とりあえずまた机の上に置いてみよう。









A「成宮さん」


鳴「本宮さんいいの？」








小さく彼の苗字を呼べば

すぐに横を向いてくれた。

不思議そうな、意外そうな顔で。

やっぱりあの新聞で見た顔と違う。

今目に映る姿からは想像できない。








A「う、うん…！」


A「私もっと話したい」








たまには勇気を出してみなきゃ。

そう思って私にしては頑張った。








鳴「そっか、じゃあ…これナイショね？」









そして彼曰く、”ナイショ”の手紙の交換が始まった。

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