No.4 ページ5
「テメェ新入生か」
『え…』
男は物憂げな視線を目蓋の裏に隠すとわたしにそう問い掛けてきた
というか、やっぱりこの反応……
『わ、たしに…見覚えはないんですか？』
「あ？ねぇよ。初めて見る顔だ」
キッパリと言い切った彼にわたしはハッとする
『(そうだ…、今のわたしの顔は麓の街で見掛けた人の模倣)』
お城へと向かう道すがらすれ違った人のうちの一人
ネモは学園に忍び込む際に姿かたちをその名も知らぬ他人へと作り替えたのだった
服も赤髪の男の子の真似をして、今のわたしの姿は本来のものではない
この獅子の男が見ているのはネモの仮初の姿
ならば本来のわたしに戻って再度問い掛けてみれば……
『(あれ…？)』
その時わたしはふと気付いた
偽物の顔に偽物の指を添える
『(わたしも、本当の自分の顔を……知らない)』
気付いた事実に愕然とする
そうだ。わたしは自分の顔を知らない。名前すらも分からない
鏡や水面に写る己の顔はどこかモヤがかかったようにぼやけていたため確認出来なかったのだ
半分以上がモヤに包まれた顔
これでは道行く人に不審に思われてしまうからと、城へは適当にすれ違った人の顔をコピーしながらやってきた
ネモは、わたしは……他人へと成り代わるのが得意だったから
それだけは確かに覚えている
ユニーク魔法だけは記憶を失っても尚わたしの中にこびり付いていた
「おい、大丈夫か」
気付くと獅子の男がこちらを訝しげに窺っていた
『え……あ、はい』
わたしは慌てて返事を返す
男は数瞬疑わしそうにわたしを見た後、一度鼻を鳴らして目を再び閉じた
「これはとある女の名残だ」
『え？』
一瞬何の話か分からず素っ頓狂な声を出す
そして一拍置いてようやく、男がブランケットの話をしているんだと気付いた
「特別に入学を許可された強い女。今はもう居ない」
そう呟く彼の声は哀愁に濡れている
閉じた目蓋の奥も、きっと
「よく一緒に昼寝をした仲だった。俺に怖がらず隣でグースカ寝るような豪胆な女。これはそいつの為に用意したものだ」
俺が使うためのものじゃない
わたしは彼の話を聞いて胸が痛くなった
『好きだったんですか、その人のこと』
気付いたらそんなことを尋ねていた
男はわたしをじっと見つめると緩慢な動作で口を開く
「……まぁな」
彼の指がブランケットに触れる
きっとここは二人が昼寝をした秘密の園だったのだろう
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くらげ - コメント失礼します！2シリーズ続いて読みました。なんか伏線とか伏線回収とか綺麗すぎて五芳星とか厄災とかもうほんとにすごかったです！次回作が作られたら速攻で見ます！これからも頑張ってください！！ (12月3日 10時) (
レス) @page50 id: 09404ca91f (このIDを非表示/違反報告)
サカ - 初コメ失礼します！全部一気読みしてしまいました。すごく素敵な物語だと思います!!!!今まで読んだ中で1番好きです (2023年1月22日 22時) (レス) @page50 id: 0270587d36 (このIDを非表示/違反報告)
やぎ - 初コメ失礼します！！この前の小説も今回もとても素敵なお話でした！初めて夢小説で泣きました(T ^ T)これからも更新頑張ってください！ (2022年9月25日 12時) (レス) @page50 id: c3ead30411 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫(プロフ) - 初コメ失礼します！！！！！とりあえず神作をありがとうございます:( ;´ཫ`;):シリーズ一気読みして何度泣いたことか…感動やばいですコレ…こんなに泣いたのは久しぶりですwこれからも投稿頑張ってください！応援してます！ (2021年11月12日 13時) (レス) @page50 id: d86b6fe909 (このIDを非表示/違反報告)
次亜鉛素酸 - 一気読みを今更させていただきました。伏線やら何やらもう神ですね(語彙力)もうコメントをご覧になっていないと思いますが、素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年10月26日 1時) (レス) @page50 id: 1c5b1c4456 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ﾆﾉｺｺ
| 作成日時：2020年12月25日 18時
