【ツイステ】N e m o

誰かの記憶 ページ13

(？？？side)







忘れられない奴がいる


今はもうこの世にいない、大切な奴だ




物腰の低い奴だった

敬語なんてよせと何度も言ったが、とうとう最後まであいつはそれを崩すこと無くこの世を去った




あいつの最後に見せた瞳が頭から離れない


澄んだ色をしていた

静かな色をしていた



己の運命を穏やかに受け入れたような、美しい色





ずっと日常は変わらないと思っていた




暖かい砂の上で隣並んで昼寝して


美味いものだってたくさん食べさせてやりたかった




あいつに似合う服を、幾らでも贈ってやりたかった





でもそれももう叶わぬ夢

あいつは死んだ



出会って数年。たったそれだけの時間しか一緒に過ごす事が出来なかった



いや、数年どころか、実際に共に過ごした時間はもっと短かい

同じ所で暮らしていた筈なのに、姿を全く見ない日もザラにあった




アイツと過ごした時間は短いが、その分共有する思い出の内容は濃かった

俺もあいつも、波乱万丈な人生だからな




あいつの体を傷付けた事は今でも後悔している

嫁入り前の女に消えない傷跡を遺しちまった


……まぁ、嫁に行く前に死んじまったけど





俺が原因で付いたその傷は、消えない跡となってあいつの胸に居座った


普段は服で隠れて見えなかったが、あいつが死んだ後もあの傷跡は細部まで脳裏にこびり付いている






なんせ俺を庇って負った裂傷

鎖骨から腹にかけて斜めに走るそれは、俺が不甲斐ない男だという動かぬ証拠だった








＿＿＿＿これは目印です




暗殺者から俺を庇って重傷を負ったそいつが、息も絶え絶えに言った言葉

辛うじて一命を取り留めたそいつは、胸に巻いた包帯から血を滲ませながら言った






＿＿＿＿此方(こち)の魔法にも穴がありまする。いくら変装が上手くたって、体に刻まれた傷跡は消えませぬ




はぁ、はぁと寝具の上で苦しげに息をするそいつは続けた







＿＿＿＿兄(あに)さまをお助けして付いたこの傷跡は、此方(こち)が此方(こち)であることの証明になりまする



だから






＿＿＿＿此方(こち)が誰かの皮を被っていたとしても、兄(あに)さまだけはこの傷跡を目印に此方(こち)のことを見つけ出してくださいな



そう遠い昔の記憶が俺に囁いた







けれど俺は今も見つけ出せずにいる


かつて熱砂を生きた華の姿を




死んだ妹の遺体を、今も尚探し続けている

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