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木の葉が落ちる季節になって俺が正式にアメリカに行く決心をしたとき、カントクはもう反対しなかった。
Aは毎日英会話の相手になってくれたし、朝から晩までずっとサポートしてくれた。
静岡合宿なんて比べ物にならないくらい、俺らにとっては怒涛の日々だった。
「う…さむ…ねむ…」
「寝るなー(笑)」
そして迎えた新年。今日くらいはちゃんとしようと朝早く叩き起こされて、近くの小さな神社に連れてこられた。
ピンと張り詰めた冷たい空気がまだ寝てる俺の頬を容赦なく撫でていく。
「ちゃんとお願いした?」
「コクン…早く布団に入りてぇ」
「何よそれー(呆)」
「…お前は?願い事…」
「私?決まってるじゃない、楓がアメリカでも元気でバスケできますようにっ…わぁっ⁉︎」
朝日に照らされた笑顔があまりに眩しかったから、思わずAを抱きしめた。
俺以外にその笑顔を向けないで欲しくて。
好きだ、A…
「ど…どうしたの?」
「…寒ぃ」
「もう…びっくりさせないでよ(呆)」
「…今年もよろしく」
「⁉︎こちらこそ…あ、そうだ楓」
「ん?」
「お誕生日おめでとう(笑)」
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2年になってからも毎日バスケと英会話に追われる俺の隣には相変わらずAがいた。
誕生日のことは話題にするのが恥ずかしくて、お互いなかったことみたいになってるけど、あの日のAの温度を俺はっきり覚えている。
いいかげん「好きだ」とはっきり伝えるべきなんだろうけど、俺はアメリカに行くし、行ったら当分帰ってくるつもりもないから、今さら言ったってどうにもならん、という気持ちが大きい。
それに…俺は信じてるんだ。
「じゃあ…身体には気をつけてね?」
「…おう」
「たまには連絡とかしてよね?」
「…」
あっという間に迎えた渡米の日。
空港まで見送りにくるのはAだけでいいと伝えていた。
最後の日くらい2人きりでいたかったから。
今年は陵南とともに神奈川代表としてIHまではいけたけど初戦敗退だった。
夏が終わった瞬間、ボロボロ泣きじゃくるメンバーとは対照的にAはお疲れ様と俺に優しく笑いかけた。
俺の高校生として、湘北の選手として突っ走ったバスケット人生が一区切りしたからだろ?
「俺、湘北に入って良かった」
「うん…」
「なぁ…」
ん?と俺を見上げたAを抱き締めて、顔が見えないのをいいことに初めて自分の気持ちを言葉にした。
俺はあっちでバスケ頑張るから。
お前がアメリカ来るの待ってるからよ。
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作者名:ぎゅりこ | 作成日時:2023年2月27日 20時