病は援護する ページ13
僕の生は、苦痛7割、幸福3割で成り立っている。
情に厚い青年は、僅かに目元を拭う仕草をして口を開いた。
「そうかい。所で、襲撃するつもりでないのなら、何故神樹に？ 魔法使いには命取りなんだろう？」
『暇潰しです。近所……という程近くもありませんが、向こうの湖畔に住んでいるので、ついでに挨拶でも、と』
「へえ。ご近所さんなんだね。それは律儀にどうも」
律儀というなら、彼の方が律儀だ。怪しい魔法使いを追い返しも攻撃もせず、普通に話しているのだから。おかしな人だ。
彼の名前は、ジャレッド・フロウ、というらしい。覚えておこう。次は手土産でも持ってこようか。僕も名前を教える。彼は、良い名前だね、と薄く笑った。
ジャレッド君と別れ、元来た道を戻っていく。その道中、魔法使いが侵入しやすくなっている箇所を見つけた。経年劣化で壁が綻んできている。それを繕える魔法を僕は持たない。だから、綻びの周囲に罠を仕掛けてみた。落とし穴の様な典型的なものから、他の仕掛けと連動して致命的ダメージを与える様なものまで、多種多様な罠を。
ここにはノーリがいる。彼を傷付ける様な輩を神樹に近付けたくない。
家に戻り、ウッドデッキで本を開く。今読んでいるのは、力がある故に迫害された少年が仲間を見つけながら旅をする物語。その世界では、力のある者が
結局、どんな世界だろうと、少数派は差別され、多数派が驕る世界になる。それが人間の本質であり、変えようの無い事実だ。
こんな世界を楽しむ方法を。
苦難まみれの世界で、幸せに笑う方法を。
そんな、理想的なものがあったなら、
僕は『摂理』と生きていく。
✡
前話と今話で、十六夜月姫様のジャレッド・フロウさんをお借りしました。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
