病は充実する ページ12
一人暮らしも、案外楽しいものだ。
目覚ましも無しに起きて、顔を洗い、朝食を作って食べ、片付けてから散歩に出掛ける。湖畔や近くの森を少し散策してから、家に戻り、ウッドデッキで本を読む。午後になったら軽く昼食を摂って、裏手にある畑の世話をする。その後湖によって、夕食用の魚を1匹獲る。家に帰って、夕食の支度をし、1人で席に着いて食べる。片付けたら風呂に入り、部屋に戻ってまた本を読む。日付を跨ぐ頃になったら、本に栞を挟んで閉じ、寝台に入って目を閉じる。
これが、今の僕の生活。毎日変わらない、ある種のルーティン。
変わり映えのしない日々、と言われれば確かにそうなのだけど、僕はかなり充実していると思っている。畑を見るのは楽しいし、本当に暇なら近くの街まで行けば良いし。立地的には、神樹にも近く駐屯街にも近く、僕にとっては最適な場所だ。
今日もルーティン通りにしようと思っていたけれど、少し変更。神樹に行ってみようと思う。クロ君から餞別にと貰った【魔力浄化妨害】付与のペンダントを首から下げる。ペンダントトップが水晶で出来た三日月で、結構気に入っているんだ。
いつも通り浮遊魔法で神樹に向かう。地面に近い所をふよふよ浮いて進む。地面に足を着いた所で、何も感じないし動かないのだから。
しばらく進んでいると、探知にどこまでも大きな樹が引っ掛かる。あれが神樹なのだろう。本当に大きい。
麓やうろの辺りでは、子供の反応がちらほらと見られる。それに混じって大人の反応もあるから、矢張り神樹の傍なら無能力者はちゃんと生きられる様だ。良かった。
「おや、君は……魔法使いだね」
かなり神樹に近付いた頃、無能力者の男に声を掛けられた。その存在には少し前から気付いていたけど、まさか声を掛けられるとは思わなかった。
かなり背が高そうだ。180はあるだろう。成人済みに思われる。
『そうですが、何か？ ああ、襲撃するつもりは微塵もありませんから、ご安心を』
「？ ……君、声が？」
『ええ。1年前に事故で』
そう光魔法で記せば、男は何故か自分の大切な者が酷い目に遭った様に目を伏せ眉を顰めた。情に厚い者なのだろうか。魔法使いに対してもそんな反応をするだなんて。彼の様な者が世界での多数派だったなら、この世界も、もっと違ったのだろうか。いや、止めよう。こんなものは虚しい空想だ。
世界は変わらない。
人も変わらない。
ならば、僕達は何故生きるんだろう。
僕は『不変』と生きていく。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
