人生は僕を嫌っている。【神樹を守る子ら】 (ページ11)

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治療薬は単独 ─第2部終幕─ ページ11

そろそろ、庇護から抜け出す時が来たのだろう。

クロ君が立ち去った後、僕は真っ直ぐお父様の元へ向かった。ある事を伝える為に。
書斎にいたお父様は、入ってきた僕に僅かに驚いた素振りを見せて、どうしたのかと微笑んだ。
伝えるべき事がある。なのに、躊躇ってしまう。もう決めたんだ。僕は──

「僕は、この家の後継者を辞退します」

沈黙。
お父様は、何も言わずに僕を見つめているみたいだ。何色か分からないお父様の目が、知的に鋭く僕を貫く。思わず息を飲む。
お父様は、本気か、とは聞かなかった。何故だ、とも聞かなかった。ただ、しばらく黙って僕を見つめ、一言、……また、顔を出しに来なさい、と呟いただけだった。
僕は、目が熱くなって、お父様に頭を下げた。こんな事を頼んでいながら、情けない姿は見せたくなかったから。
息子にあんな風に言われて、お父様の様に返せる人間が、この世にどれだけいるだろう。矢張り僕は、どう足掻いたって、お父様には適わないと、あの時心からそう思った。

あれから、お父様は僕の体調を考慮して、神樹が近い湖の傍に僕の家を建てて下さった。とてもありがたいのだけど、たった1人で住む家が、8人家族が余裕で暮らせる大きさなのはどうかと思ってしまう。それだけ大切に思って下さっているのだと思えば、全然苦では無いのだけど。
また会いにおいで。
お父様は最後にそう言って、僕の返事も聞かずに帰られた。

さて、ここから僕の新生活が始まる。

目は見えないし、声は出せないし、四肢も動かないけれど……──

僕は、それでも、苦難の人生を楽しんでみせよう。

僕は笑う。『人生』という名の病に。