俺様な彼女 ページ34
「 Ladies and gentlemen, boys and girls！ようこそお越しくださいました！」
絵本に出てくるような黄色いテントの小さなサーカス。ちょっとした良い仕事を貰って懐が暖かかったから、吸い込まれるように入ってしまった。
カウンターに人は居なくて、1枚1500円と書かれたチケットが入った箱だけがおかれていた。無視してもバレなさそうな粗末なつくりに苦笑して、律儀に1500円を入れて布をくぐった。
「お客様は当サーカスの記念すべき100人目のお客様です！特別大サービスで営業させていただきますっ！」
布をくぐる前のほのかな高揚感は消え失せ、代わりに激しい落胆が俺を襲う。
数十人は座れるであろう観客席を見渡しても俺ひとり。ステージに立つのはピエロみたいな格好をしロリータ。
帰ることを考えたが、せっかく特別サービスをしてくれるのに断るのもしのびねぇ。1500円に値するモノが見れればラッキー、くらいの感じで一番前のど真ん中に座る。
「えーっと、出口はいつも貴方の一番そばにありますから！取り敢えず僕のお友達。を紹介しますね。こう見えて良い子なんですよぉ？」
入ってくる際に確認したが出口は真後ろ。訳のわからないことをペラペラと喋るキチガイに認識を改めてそのキチガイが指差した先を見る。ちょうど上手から、首輪を付けただけのライオンと太いヘビが出てくるのがよく見えた。
ステージにはくぐるような火の輪もねぇし、巻き付けるような棒もねぇ。あるのは手綱を握ったロリータ。数秒後を想像して嫌な汗が背中を伝う。
「さぁ！お散歩とご飯の時間ですよっ！」
ロリータの眼に浮かぶのは愉楽と慈愛。口角がニィっと上がって、予想通り手綱を離した。
「安全には十分ご注意ください！」
「注意が遅いんだよ。大切な客が死ぬぞ？」
「……それはダメなことなんですか？」
さも不思議そうに首を傾げるロリータを見て殺気が湧く。誰も死ぬためにサーカス見に来ねぇよ。
このやり取りの中でもう2度もライオンの爪を避け、毒液と思われるヘビの噴射物を1度座席で防いでいる。幸い観客席という名の遮蔽物は大量にある。そのまま撒いて出口に行ければ俺の勝ちだ。
「あっ、逃げるなんてダメですよ。サーカスはまだ途中です！」
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作者名：涙(るい) | 作成日時：2021年2月1日 7時
