君に恋するひとりごと【ky】 (ページ20)

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反対側な彼女ページ20

「俺のチャンネル見て何してんの。昨日のやつは昨日見てたじゃん」

聞かなくても彼女が何を思って何を見ているかは明白で、下を向いてる顔がどんな表情を浮かべているかも容易に想像できた。
止まることを知らずにぐんぐん伸びる登録者数。ついさっき300万人感謝ツイをしたばっかりだった。自由に好き勝手喋ってゲームをするだけで300万人もの人と繋がることが出来るなんて不思議な気もするが、世の中そういうもんだと深くは考えずに、目の前の彼女に集中する。

「300万って実感湧かないけどすっごいね。みんなおめでとうって言ってるよ」

ようやくAがひねり出した言葉は、上辺だけの綺麗な言葉。底が濁った水槽の上澄みを取り出したような彼女の言葉は、いつものように響かない。俺の彼女がこんな素直でまっすぐな人間な訳がないのだ。俺が知ってるAは、バレンタインのお返しに賞味期限がない愛を頂戴と素面で言える重たい女であり、俺の動画を本人の前で見て緩む頬を押さえきれないオタクだ。
そんな彼女が『300万って実感湧かないけどすっごいね。みんなおめでとうって言ってるよ』で済むかというと、それは否だ。
どうせ心のなかは大しけで、本当に言いたいことには無理矢理封をして瓶にでもいれて流したんだろう。だからAは一番肝心なはずのおめでとうが言えなくて、俺はAからおめでとうをもらえない。

「Aからのおめでとうは？みんなからは貰ったけど、Aからだけ貰えてねぇんだけど」

子供じみた返しなのはわかっている。彼女が伝えないと決めたなら、それを尊重して別の話題に移るべきだった。だけど、本音を聞きたくて後悔しても良いから話を続けた。海辺に流れてきた瓶に気づいてしまったら、開けるしかないのと同じ原理だ。

「その300万人全部私なら純度100％のおめでとうが言えたんだけどね、そんなわけなくて。嫉妬で素直に喜べない汚れたおめでとうは伝えたくなかっただけ」

自虐気味に笑うAのスマホの画面には青い鳥のマークが見える。そんな顔で笑う彼女は見たくないが、それを作り出したのは俺。
俺より俺に詳しい彼女はきっと俺より先に300万人に気づいていたんだろう。
俺が来る前に、ハッシュタグに付随した大きなひとりごとに傷ついて泣いて冷静になってAが出した答えは、おめでとうを言わないこと。