47本目 ページ49
「……時間あるなら数学教えてくれない？」
その結縁の頼みは爆豪の思考を止めるのに十分な効果を発揮した。戸惑いの「何で」が今度は爆豪を埋め尽くした。彼女がこんな風に素直に自分を頼ってくるとは思いもしなかったからである。爆豪は無意識にその頼みを承諾していて、しかし口には出さずにあることで迷っていた。
図書室のテーブルは6人掛けであり、結縁は端に座っていた。向かい3席と隣、その隣の2席は空いている状態である。爆豪は柄にも無く、些細なことで選択を迫られていた。隣に座るか、向かいに座るかの二者択一に数秒時間を取られていた。
結縁の表情が諦めの色で曇った瞬間、丁寧とは言えない動作で彼女の対面の椅子に座った。すぐ諦める彼女に苛立ったのか、つまらないことで悩んだ自分に苛立ったのかは知る由もない。とにかく爆豪が教えてくれる、と認識した彼女の表情は地獄で仏に会ったように緩んでいた。それを見て覚えた妙にそわそわとした感覚を振り払うように、結縁の問いかけに答えた。
結論から言えば、結縁は爆豪が想像していたよりも教えやすい相手だった。爆豪は口が悪いが、結縁は慣れているのかいちいち気にしたりせずに、罵倒に続く解説を大人しく聞いていた。そして彼女は解き方がわからない時にはわかりやすく表情に出るため、口も出しやすかった。
時折こちらを見て不思議そうな顔をしていたので、暗に「集中しろ」と伝えれば「教えるのが上手い」などと、純粋な感心を隠しもしないので爆豪はどう反応すればいいのかわからなかった。爆豪は自分が決して優しくはないことは理解している。自分が言われるタイプの誉め言葉ではないそれに、少なからず動揺してつっけんどんに返した。きっと彼女は何も気にしていない。
向かいに座ったのはいつかの食堂ぶりだろうか。あの時は状況を理解しきれずに苛立って、結縁に当たっていたのを思い出した。そういえば、あの時自分が蹴った脛はさすがに癒えたのだろうか。思い出して、心なしか体温が下がったように感じられたが、特に前のような警戒心の欠片も見せない彼女を見るにきっと問題ないのだろう。
爆豪は自分がどうして縁を辿って図書室へ来たのかも、わざわざ残って勉強を教えているのかもどうでもよくなっていた。自分が教えたことによって結縁が点数を取れるのなら悪くはないと思った。恩を売りたいわけではない。ただ、彼女が自分に向ける感謝の笑顔を見る度に心にふわりと吹く暖かな風が心地良かった。
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廿楽(プロフ) - くまめとろさん» 復活しました。待っていてくださってありがとうございます。コメントも感謝致します。 (2021年9月16日 1時) (
レス) id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - 瑞乃さん» 長い間放置していて申し訳ありません。また読んでいただけると嬉しいです。 (2021年9月16日 1時) (レス) id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - 朧月さん» お待たせしました！喜んでいただけて嬉しいです。 (2021年9月16日 1時) (レス) id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
くまめとろ(プロフ) - 更新の通知きてびっくりしました…好きなので嬉しいです (2021年9月1日 21時) (レス) id: b5e5ff3f06 (このIDを非表示/違反報告)
瑞乃(プロフ) - 更新させてて叫んでしまいました……！ありがとうございます(；；) (2021年8月25日 12時) (レス) id: e6a7fa3ebe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：廿楽
| 作成日時：2017年8月25日 15時
