46本目 ページ48
図書室特有の沈黙が刺さる様に私の精神を抉っていた。やっぱり駄目か、と諦めて合わせていた手の平をシャープペンシルに戻そうとした時だった。
舌打ちが1つ聞こえて、テーブルの揺れでペンケースの中身がカシャリと軽い音を立てる。唖然としながら見ていると、今度は正面から「さっさとできねえとこ出せや」とぶっきらぼうな声がした。目の前が一段階明るく見えて、暗いトンネルで出口を見つけた様な安心感で泣きそうになった。
「数Aの確率の応用わかる？」
「アホか舐めんな」
枕詞の様な罵倒もこの状況ならば気にならなかった。今の私にとって爆豪の存在は砂漠のオアシス、救世主にも等しいからである。このギリギリの時期に数学を教えてくれるのなら多少スパルタだろうが理不尽だろうが文句はない。
驚いたのはその解説の丁寧さである。確かに厳しい部類だろうが、わからないと意思表示をすればバカとかカスとか言いながらも、きちんとどこがわからないのかを提示した上で解説してくれるのだ。暴言に耐性がある人にとっては、かなり良い先生なのではないだろうか。
「余計な事考えてんじゃねーよ」
「教えるの上手いなあって」
上瞼が跳ねるみたいに瞬きをして、爆豪は「下らねえこと言ってんじゃねぇよ」とそっぽを向いてしまった。今教えたことを参考にして例題を早く解け、ということだろう。先程までは途中から日本語とは思えなかった問題も、爆豪の教えを受けた今ではするりと意味が理解できる。いつぞやに投函されていた通信教育の勧誘漫画みたいだな、と笑いそうになった。
教えられては実践を繰り返して、ノルマを達成したのが下校時刻すれすれのことであった。対面の彼は帰ることなく静かに私が問題集を進める様子を眺めていた。正直恥ずかしかったが、間違えた時に気付かないと、すぐに指摘をしてくれたので大いに助かったのも事実だ。
「終わった……！ 本当にありがとう」
「遅ェわバカは大変だな」
事実であることと今日のことがあるため「本当にね」と笑うと「ケッ」と何とも言えない反応をされた。自然な流れで下駄箱まで一緒に来てしまったが、帰宅もそうなるだろうか。こんな時間まで付き合わせてしまったのだから、何かお礼をしたいと考えるのはおかしくないはずだ。
「もう結構蒸すねえ」
「前からだろ」
「アイスとか食べたくない？」
「全然」
コンビニでアイス奢ろう作戦、失敗です。確かに甘い物とか好きじゃなさそうだもんなぁと肩を落とした。
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廿楽(プロフ) - くまめとろさん» 復活しました。待っていてくださってありがとうございます。コメントも感謝致します。 (2021年9月16日 1時) (
レス) id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - 瑞乃さん» 長い間放置していて申し訳ありません。また読んでいただけると嬉しいです。 (2021年9月16日 1時) (レス) id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - 朧月さん» お待たせしました！喜んでいただけて嬉しいです。 (2021年9月16日 1時) (レス) id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
くまめとろ(プロフ) - 更新の通知きてびっくりしました…好きなので嬉しいです (2021年9月1日 21時) (レス) id: b5e5ff3f06 (このIDを非表示/違反報告)
瑞乃(プロフ) - 更新させてて叫んでしまいました……！ありがとうございます(；；) (2021年8月25日 12時) (レス) id: e6a7fa3ebe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：廿楽
| 作成日時：2017年8月25日 15時
