41本目 ページ43
――終わった。直感的にそう思った私は、せめて倒れまいと焼け石に水だろうが体幹を全力ではたらかせた。しかし、思っていたよりも揺れは小さかったようだ。……否、正確には私だけ大して揺さぶられることが無かったのだ。「チッ」と舌打ちが聞こえて、恐る恐る目を開けると爆豪が片腕で私を支えてくれていたのだった。
「ごめん、ありがとう」
小声で礼を述べれば、見下すというよりかは馬鹿にするように「ひ弱なんだよ、カス」と吐かれた。息をするように飛び出す暴言に驚きを隠せないが、実際支えてはくれたのだ。感謝はするべきなのだろう。
「体育祭とかでも凄かったけど、よく咄嗟に反応できるよね」
「てめェみてえなモブ1人くらいどうとでもなるわ」
「私も鍛えようかな、満員電車に備えて」
「無駄だろ」
なにおう、と反論すればそっぽを向かれた。これは今考えることではないのかもしれないが、少しだけ爆豪と仲良くなれたような気がするのは自意識過剰だろうか。前と比べて会話のテンポが知人から友人レベルには良くなったように思える。それに、今だって別に爆豪は何もしなくても、私が勝手に転ぶ程度のことだったのに、わざわざスマホを手放してまで支えてくれた。いつか馬乗りされたり怒鳴りあったりしたことを思い出して、少しだけ懐かしい気持ちになった。
ふと、左腕の圧迫感が気になって顔ごと視線を移すと、まだ爆豪の大きな手でしっかりと支えられていた。その事実を認識して、気恥ずかしさがぶわりと頬を包むように私を襲う。気にしていないよ、という風に「もう大丈夫なんだけど」と絞り出すと、爆豪はこちらを一瞥して「うるせぇ」とだけ言って、結局身体はその頼もしい腕に支えられたままだ。
よく片腕だけで人を支えられるな、とかそんな感心で誤魔化しても、ブレザー越しに伝わる熱は紛れもなく本物だ。気付いてしまえばたちまち簡単に脳内を占拠して、桃色のガスみたいにその思考を覆った。
「お出口は左側です」
電車が駅に着く合図の様なアナウンスで、脳を満たした熱は1度霧散した。この状況から逃げ出したいような、心臓を擽られる様なこそばゆさの先を知りたいような、そんな気持ちを置いて降車する。
「具合悪いんか」
「爆豪ってそんな感じだっけ？」
「は？」
自分の心の内がぽろりと口から漏れ出す。だってそうでしょう。モブみたいな人間のことを心配するような言葉を掛けるなんて、そういう人物ではなかったじゃないか。
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廿楽(プロフ) - くまめとろさん» 復活しました。待っていてくださってありがとうございます。コメントも感謝致します。 (2021年9月16日 1時) (
レス) id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - 瑞乃さん» 長い間放置していて申し訳ありません。また読んでいただけると嬉しいです。 (2021年9月16日 1時) (レス) id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - 朧月さん» お待たせしました！喜んでいただけて嬉しいです。 (2021年9月16日 1時) (レス) id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
くまめとろ(プロフ) - 更新の通知きてびっくりしました…好きなので嬉しいです (2021年9月1日 21時) (レス) id: b5e5ff3f06 (このIDを非表示/違反報告)
瑞乃(プロフ) - 更新させてて叫んでしまいました……！ありがとうございます(；；) (2021年8月25日 12時) (レス) id: e6a7fa3ebe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：廿楽
| 作成日時：2017年8月25日 15時
