31本目 ページ33
その時、何かしらで埋まっている自分の頭に一瞬、空白が出来たように感じられた。彼は見かけによらず冷静な判断力を持った人物だと評されることが多い。今の状況を作り出したのも、極めて冷静に、合理的にトラブルを招くまいと思案した結果であった。実際にその判断は間違えでなく、事がややこしくなる状況を回避出来たと言える。
予想外だったのは、彼女の反応か、体温か、肌の柔らかさだったか。それともそれらを意識してしまった彼の青い部分だったのか。或いはその両方だろう。とにかく如何に名門校の生徒といえど高校生の彼らは戸惑いを隠せないまま、少しずつ時間が過ぎていた。暑いのは、風薫れど蒸すこの季節のせいだ。この熱い頬も、指先も全部、カーテンの隙間から差し込む西日のせいだ。
「……どけよ」
爆豪が言い終えた瞬間、正確には食い気味に結縁は驚くべき瞬発力でベッドから離れた。勢い良く飛び出たことにより息は少し乱れ、顔は全体的に薄紅に染まっていた。そして、やっと聞き取れるくらいの早口で爆豪に対して謝罪し、女子とは思えない俊足で保健室を出て行った。
つい「何だあいつ」と口に出した後、一連の流れを思い返す。とっさの判断だったとはいえ、普通ではなかったのは理解した。理解した上で先程の結縁の反応を考えれば、彼女が照れていることなど火を見るよりも明らかであった。
「気色悪ぃ」
そう言う口元には噛み殺し切れていない笑みが浮かんでいた。彼は自分が少しでも結縁Aを可愛いと思ってしまったことにまだ気付けない。
一方、結縁は廊下で滑って転び、周りに人がいなかったことに感謝していた。と同時に、先のことを思い出して硬い床に思わず頭突きをし、額に多少の傷が出来ていた。くすぐられるような羞恥心を痛みで相殺しようと無意識の試みだったが失敗に終わった。
何あれ、と繰り返し行き場の無い疑問を自分の中で爆発させる。腕とか、胸とか、自分と比べて全然違った。鍛えているのは想像ができる。しかし、そういうことではなく、根本的に作りが違うというか、男女の差を目の当たりにしてしまったのだ。密着した状態で。男子なのに少しだけ甘い香りがして、思い出したらまた熱がぶり返した。自分は汗臭くなかっただろうか。そんな不安と交互にやってきてそわそわと落ち着かない。
相手は爆豪なのに、私は何をこんなに悶々としているのだろう。そんな事実に頭を抱えた。
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廿楽(プロフ) - くまめとろさん» 復活しました。待っていてくださってありがとうございます。コメントも感謝致します。 (2021年9月16日 1時) (
レス) id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - 瑞乃さん» 長い間放置していて申し訳ありません。また読んでいただけると嬉しいです。 (2021年9月16日 1時) (レス) id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - 朧月さん» お待たせしました！喜んでいただけて嬉しいです。 (2021年9月16日 1時) (レス) id: 3ef6add51e (このIDを非表示/違反報告)
くまめとろ(プロフ) - 更新の通知きてびっくりしました…好きなので嬉しいです (2021年9月1日 21時) (レス) id: b5e5ff3f06 (このIDを非表示/違反報告)
瑞乃(プロフ) - 更新させてて叫んでしまいました……！ありがとうございます(；；) (2021年8月25日 12時) (レス) id: e6a7fa3ebe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：廿楽
| 作成日時：2017年8月25日 15時
