天邪鬼 -Ren Meguro- (ページ5)

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Seventeen⑤ ページ5

ある日の放課後、友達の部活が終わるのを待つために教室で待っていた。

いつもの席に座って何を考えるでもなく窓に目をやる。

稽古やらオーディションやら、普通の人とは違うJrの生活に達成感を感じつつも日に日に増える不安と疲労をぬぐいきれずにいた。

こうして物思いにふけるのが、俺の唯一何にも考えなくていい時間。
自然と好きな歌が口から溢れる。静かな教室に自分の歌声だけが響いた。

貴「…入るよ」
「うお！？！？」

ドアの前にはさっきまでいなかった鬼ヶ峰が。
度肝をぬかれ思わず席を立ってしまう。鬼ヶ峰の顔がどんどん怪訝になる。

「な何してんの？こんな時間に」
貴「…練習」
歌声を聞かれたきまずさと恥ずかしさを隠しつつ、なんとか引きつった笑顔で取り繕う。

「あ、バンドの？」
貴「そう」
「音楽室でやってるんじゃねえの？」
貴「ピックの換え、教室に忘れて」

そう言って彼女は自分の机の中からピックを取り出す。
近くを通った瞬間、ふわっと甘い香りがした。

…思ったより綺麗な声してる。
もっと冷たい声してるのかと思ってた、印象的に。
自己紹介のときは声も小さくて聞こえづらくて気づかなかったんかな。初めてちゃんと喋ったし。

貴「声、綺麗」
「誰が！？！？」

心の中を読まれたような気がして予想以上の声量で叫ぶ。

鬼ヶ峰は少し首を傾げたあと「あんたの、歌声」と呟いた。
数秒後、やっと意味を理解し驚きでまたも大声を出してしまう。

「あ、俺の？！！？」

鬼ヶ峰って人を褒めることあるのか。
そう思ったのも束の間。次に見えた光景に俺は目を離せなくなってしまった。

貴「うるっさ…w」

…笑った。
あの、仏頂面で冷たくてその名の通り鬼だと言われていた鬼ヶ峰が。

今、確かに俺の前で信じられないほど柔らかい表情で笑っていた。

綺麗、可愛い、そんな言葉じゃ足りないくらいに、眩しく温かく。

「文化祭にはバンド出ねえの？」
貴「出るよ」
支度が終わって戻ろうとする鬼ヶ峰に聞いた。
窓の外からオレンジ色の夕日が俺たちを照らす。

貴「見に来れば？」

そう俺に言い放って彼女は俺を置いて教室を出て行った。
最後にまた微笑んでいたような気がしたのは俺の幻覚かはたまた夢なのか

「あっつ…」

もう季節は秋なのに
開け放った窓からは北風が入ってきているはずなのに。

それでもまだこの暑さが冷めやらないなんて
おかしい。これは絶対におかしい。