79 ページ30
＊
お世話になった家の玄関でお別れをする。
「いつでも連絡してよ。なにか困ったことがあればさ」
お別れの瞬間まで彼はどこまでも親切だった。
「そんな都合のいい話ないですよ」
「そうかな？Aが俺とは付き合えない、頑なに友達だと言い張っても、俺の好きな人はやっぱり君だよ。
今も俺はAには赤い薔薇を贈ると思う。
Aが黄色い薔薇を選んだとしてもね」
「そんなこと言って…私と会わなくなればそんな感情もなくなりますよ」
「Aは？」
「え？」
「俺と今日別れたらもう俺のことは思い出さなくなる？」
上目遣いで尋ねてくる。
きっぱりここは思い出さないですって言うべきだろうとは思ったが、そう徹底した返しもできなかった。
「良くしてもらった思い出はずっと残り続けると思います。テレビで顔を見ることもあるでしょうし。
そういう時にはここでの暮らしを思い出すと思います」
「なーんか綺麗にまとめられたな〜」と彼は言った。
「まぁこういう気持ちそんなすぐ切り替えられないのはAがよくわかってるでしょ？
俺はしばらく引きずりそうだな〜」
彼は自分自身に呆れたように軽く笑った。
「体に気をつけてね」
「中島さんも。お体大事にしてくださいね」
「うん。じゃ、元気で」
彼のマンションを出て私の次なる家までの道。
空は雲ひとつない青空だった。
新しい自分の人生を歩んでいくのにふさわしいほどの快晴。
裏切られたくない。傷つきたくない。
彼への淡い想いに蓋をして、
好きになることで生じる障害をおそれて彼から離れる決断をした。
自分で下した家を出るという決断なのに、
中島さんは笑顔で私を送り出してくれたのに、私の心は彼と離れたくないと泣いていた。
家を出た瞬間、私は自分の彼への想いがとても大きなものになっていたこと気づく。
私は彼に大きな恋情を抱いたまま、
でもそれを彼に告げることのないまま彼の元を去った。
＊
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 423人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
にこ(プロフ) - ふぅかさん» 小説を読み返して幸せに浸る予定だなんて嬉しいお言葉ありがとうございます🥹お話に触れる時間がふぅかさんにとって楽しいひとときとなっていれば幸いです。またどこかのお話でお会いできることを楽しみにしています。ありがとうございました！ (3月9日 14時) (
レス) id: aba4acfcad (このIDを非表示/違反報告)
ふぅか(プロフ) - 完結おめでとうございます!! 本当に素敵な作品です🩷 3月末、寂しいです…が、にこさんの小説を読み返して幸せな気持ちに浸る予定です! また次作も楽しみにしてます! 応援してます! (3月9日 2時) (レス) @page48 id: af1a48aa9a (このIDを非表示/違反報告)
にこ(プロフ) - ふぅかさん» コメントありがとうございます♡世界観を気に入って頂けてよかったです！きちんと完結させるよう頑張りますので最後まで見届けて頂けたら嬉しいです♡引き続きよろしくお願いします (2月23日 15時) (レス) id: aba4acfcad (このIDを非表示/違反報告)
ふぅか(プロフ) - いつも楽しませていただいております! この世界観、大好きです! 応援してます! (2月23日 0時) (レス) @page26 id: af1a48aa9a (このIDを非表示/違反報告)
にこ(プロフ) - こたさん» いろんなことが一気にあってもう2月になりそうですけども。ご心配おかけしてたのならすみません🙏こんな時にリアル設定ってどうなの、とか思ったりしてますが、世界観を気に入ってもらえてるのならよかったです🥺優しいお言葉ありがとうございます🥺 (1月31日 1時) (レス) id: aba4acfcad (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：にこ
| 作成日時：2024年1月5日 17時
