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ここはもう、あの人の部屋に、なっちゃったんだな。
部屋の隅に段ボールが置かれていて、私のものが入っている。
使っていた棚には私のものではない、女物の小物などが収納されていた。
クローゼットの中も私のものは隅に押しやられていて、奥の方から自分の服を引っ張り出す。
彼女とは服の好みも正反対だった。
亮輔は私にこういう服を着て欲しかったんだろうか。
今さらそんなことを知ってもどうにもならないけど。
洗面所に入り、持って行けずにここに残っていた化粧品などをどんどんバッグに詰めていく。
何も対応しないのは申し訳ないと思ったのか、亮輔が作業する私の元に来て
「何か手伝おうか？」
なんて話しかけてきた。
「いや、大丈夫」
「そうか」
キッチンには私が個人的に買ったお気に入りの食器とかあった気がしたがそんなものまで持って行くと、ここでのことを思い出す道具になりそうでやめておいた。
ダイニングに戻り忘れ物がないか部屋を見回す。
かつて私が薔薇の花を飾っていたサイドボードには彼女の持ち物が乱雑に置かれていた。
「ほんとに、悪いと思ってる」
亮輔にこの前と全く同じセリフで謝られた。
「もう、いいよ」
そろそろ私が帰る気配を察知したのか、リビングから女が振り返り、座ったままぺこりと会釈された。
負けたとか、勝ったとかではないんだろうけど、私はこんな礼儀もないような女に、大切だった居場所を取って代わられたと思うとやるせなさが込み上げてくる。
もはや悲しみはない。だけど悔しさで泣きそうだった。
でも絶対こんな2人の前で涙なんか見せたくない。
さようなら、と最後の挨拶を口にしようとした時
ガチャ、バン！
と玄関が開いて閉まる音がこちらまで聞こえてきて、
え？と廊下を振り返るより早く
「A、おそーい！待ちくたびれたじゃん」
うしろからガバッと抱きつかれた。
あの夜のベッドに残っていたのと同じ香りに包まれる。
「え？」
そこにいた私含め全員の声が重なった。
「A、おまえ…その男…」
戸惑う亮輔の声を無視して、うしろから私の顔を覗き込みながらとびきり甘く話しかけてきた。
「A？早く帰ろ？荷物まとまった？」
「え、あ、うん。もう終わり…終わったよ」
なんとなく中島さんの演技に乗った方がいいのかと思って敬語をやめた。
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作者名：にこ
| 作成日時：2023年11月11日 20時
