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あの喫茶店は中島さんの近所でもあったが、私の花屋の近所でもある。
そして花屋と私の家は目と鼻の先なのであっという間にかつての我が家に到着した。
「着いた」
「ありがとうございます」
しかし私が降りると、運転席の彼も降りてきた。
「え？」
「俺荷物持ち。ドアの外で待ってる」
「いや、いやいや、そんなダメですって」
「ダメじゃない。ほらここで言い合いしてたら目立つから」
丸め込まれるようにして一緒にマンションのエントランスをくぐる。
低層階なんてエレベーターですぐ到着してしまう。
たいした作戦も立てられないまま、私の家の扉の前に来てしまった。
こうなったら仕方ない。
時間をかけずに荷物をまとめなければ。
「俺、ここで待ってる」
扉の横の壁に寄りかかりながら腕組みして言う。
心なしかキャップを深くかぶってくれていて、少し安心した。
「あの…絶対おとなりさんとか、ここ通る人にバレないように…」
「わかってるって。何年アイドルやってると思ってるの。そんなヘマしないよ。ほら、行ってきな。
喧嘩になって皿が割れる音がしたら俺が止めに行く」
と最後はからかってきて、緊張の糸が緩んだ。
「ふふ。よろしくお願いします」
うん、と目で頷かれ、持っていた家の鍵を差し込もうと深呼吸をした時、背中にそっと彼の手が置かれるのを感じた。
「青木さんは素敵な人だよ。
何も悪いことしてないんだから胸張って」
気が小さくなって背中が丸まっていたのかと背筋を伸ばすと
「すっぴんもかわいいから大丈夫」
この前と同じことを言われた。
「…今は化粧してます」
振り返ると
「うん。もっとかわいい」
と笑いかけられた。
家の中に入って扉が私の背中で閉まる。
ガチャン、という玄関のドア音が聞こえたのか、廊下の扉が開き亮輔が顔を出した。
毎日顔を合わせていたので、ちょっと会わないだけですごく久しぶりに感じる。
「A…」
「いきなりきてごめん。荷物取りに来た」
「あ、うん。どうぞ上がって」
リビングに入ると、あの女の人はテレビを見ていて、私を振り返りこんばんは、と言ってきた。
どういう神経してるんだろう…
何かひとこと言ってやりたいが、いまさら何を言っても意味なんてない。
相手を
私は「こんばんは」と早口に返して自分の部屋に入った。
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作者名：にこ
| 作成日時：2023年11月11日 20時
