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「…嫌わないです。心配しないで下さい」
「そっか」
「はい。
あ、それで、なにか急ぎの用事があったわけではないんですよね？私スマホ見てなくてすみません」
「いや、その…ひとりでどこかに行ってしまったんじゃないかと思って。外暗くなってるのに家にいなかったから」
「どこかって…私行くところないですよ？」
「うん。冷静に考えたらそうなんだけど。
青木さん、目を離すとひとりでどこか行っちゃいそうな雰囲気あるから」
「そこまで思いつめてないです。たかが恋人との破局ですから…」
「たかがじゃない。
青木さんがその出来事のせいで今とても苦しかったり悲しかったりしてることが問題なんだ」
人の痛みに理解ある言葉だった。
「ひとりでふらっと出て行ったりしないでね？
青木さんを無理にここに留めておくことはできないのはわかってるんだけど…
まだもう少し英気は養ってほしいっていうか、単純に俺が一緒にいてあげたいっていうか…」
「ありがとうございます。大丈夫です、勝手に出て行ったりしないです。
そもそも置いてもらってとてもありがたいですし」
「そっか。それ聞いて安心した」
「はい。でもあまり夜は出歩かないようにしますね。
中島さんが心配するから」
ありがたいけど心配性だな、という意味も込めて、最後の一言はちょっと笑いながら言ってしまった。
「心配するよ。大事な人なんだから」
しかし予想外に真面目に返されてしまう。
「………親？」
「親じゃねーから！」
「ふふ」
「あ、ほら上がりな？夜はもう食べた？」
玄関で会話していたことに気づき部屋に入る。
「まだです」
「じゃ食べようぜ」
「何食べるんですか？私何も用意できてなくて」
「宅配でよくね？」
「そうですね」
あれほど真面目な言葉をくれたのに、はぐらかすような対応をしてすみません、と心の中では申し訳なく思っていた。
大事な人の意味するところが何なのかはっきりと言われたわけではないが、彼の私に対する想いがいい加減なものでないことには気づいていた。
彼の言葉と表情を見ればそれはわかる。
ただそれを受け止める気持ちが私にはない。
あんなことがあったせいで、私はもう誰かを好きになりたくないと、思っていた。
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作者名：にこ
| 作成日時：2023年11月11日 20時
