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＊
行っちゃった。
シンとした玄関で
「お留守番だね。ボニータ、よろしくね」
しゃがんで話しかけるとちょろっとしっぽを振ってリビングにトコトコ行ってしまった。
私は犬を飼ったことはないから、むやみやたら触ったり抱き上げたりはできなくて、ただただ見守り隊のような状態だった。
私がソファに座り、ボニータはその近くでひとりでおもちゃで遊んだり、クッションの上で寝たり自由に過ごしている。
この家では何もできることがないので、仕方なく引きこもりのようになっていたが、お昼に一度中島さんから着信があった。
「もしもーし」
「はい」
「青木さん？俺」
「おつかれさまです。どうしました？」
「いや。どうもしてないけど、青木さん何してるかなーと思って」
「えっと。あの…なにもしてません。
何かお家のことできたらよかったんですけど」
改めて申し訳ないと思っていると
「いや！そういう意味で電話したわけじゃねーから！」
と焦っている。
「お昼は食べた？」
「はい。コンビニに行って買ってきました」
「そっか。夜は一緒に食べない？
スケジュール通りの時間で進んでるし、あと弁当が持って帰れそうだから」
「いいんですか？」
「うん。焼肉弁当だよ。めっちゃテンション上がらね？」
電話口の声が明るい。
「ふふ、そうですね」
「じゃあ夜ご飯、待っててね」
「はい」
電話を終えるとラインの通知に気づいた。
アプリを開くと亮輔からで、もしかしてヨリを戻そうとかだったら…？と淡い期待をしてしまっているような、そんなことを少しでも願っているとは本当に私自身のことなのに理解に苦しむ。
7年という年月は長い。そう簡単に心の整理ができなかった。
しかし開いたメッセージは
“Aの荷物、取りに来てくれませんか？”
という業務連絡のような内容だった。
敬語なのもそうだし、荷物持って行けと言われてしまうなんて、もう本当に私たち2人の関係は終わったのだと、これでもかってぐらい突きつけられる。
“捨ててもらって大丈夫です”
私も他人行儀な返事になった。
“そういうわけにもいかないし。
服とか、小物とかアクセサリーもあるから、時間見つけて来てください”
数分後に来たそのメッセージへの返信はしなかった。
今は行く気にもなれない。
＊
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作者名：にこ
| 作成日時：2023年11月11日 20時
