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「こんな感じで包んだら、あとはこの輪ゴムを隠すようにリボンを結んでいけば完成です」
視線を上げると私の手元を覗き込むように見ていた彼も顔を上げたので、カウンター越しにばっちり目が合った。
「あ…」
「ん？あ、ごめん。近かったですよね。
よく見ようと思ったらカウンターに乗り出してた」
彼は笑顔で謝りながらカウンターから少し身を離す。
「いえ…そんな近くで見られてラッピングすることないのでちょっと緊張します、ね」
どんな接近戦でも怖いもの知らずな美しい顔をしていた。
カウンターに散らばった葉っぱなどを片付けながらドキドキしたのを悟られないように言うと
「そうなんですか？」
と彼はなんてことないように微笑んでいた。
作業をする彼の顔をチラッと盗み見たら真剣そのもの。
初めてのことなのはもちろんあるとは思うが、あまり器用な感じじゃなくてどっちかといったら不器用そうに見える手つき。
でもすごく一生懸命手を動かしていて、その様子に口元が緩みそうになった。
それに気づかれないように視線を自分の手元に戻して私も作業を進める。
「あとはリボンを結ぶだけですけど…よければ結びますか？私が長さを整えて準備しますので」
「いいんですか？やりたいです」
リボンを渡し蝶々結びをして薔薇の花束を仕上げてもらう。
いくつかのリボンを結び終えたとき、ふと彼が話し出した。
「これ、公演の差し入れみたいな感じで、ひとり一本なんです」
そう、教えてくれた。
それを聞いて私も、もうそろそろ知らないふりはしなくてもいいかな、と思った。
随分とお話しするようになったし。
「素敵ですね。中島さんらしいです」
驚いた彼が顔を上げた。
「知ってたんですか？」
「はい」
「いつから？」
「佐藤さんへの花束をご購入頂いたときからです」
「え！グループも知ってくれてるんですか？」
「はい。大丈夫です。誰にも言いません。
せっかくご利用いただいてるので」
「それは助かるな。
でもまさか気づかれてたとは。何も言われないから気づかれてないと思ってた」
「まさか！中島さん、有名人じゃないですか！
テレビでお見かけするたび、中島さんはかっこいいなと思っていましたし」
「え、それは嬉しい」
にこにこしている顔は年齢より幼く見える。
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作者名：にこ
| 作成日時：2023年11月11日 20時
