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店の裏に回ると一台車が停まっていて、運転席の人物が中島さんだと分かったのでその後ろに乗り込んだ。
「あの、すみません。ほんとに」
「すみませんは、さっきも聞いたから」
バックミラー越しに目が合った。
大丈夫だから、と言ってくれているような目だった。
もう本当に走った距離はわずかで、あっという間に車は駐車場に入っていく。
駐車場から続くエレベーターに乗り込み、黙ってフロアの表示を眺める。
エレベーターの中では中島さんとは対角の位置に陣取り、なんとなく他人のふりをした。
途中の階で誰も乗り込んで来なくてよかったと思いながら中島さんが部屋の鍵を開ける様子をぼんやり見ていると
「駐車場に入ってしまえば住人しかいないから心配いらないよ」
諸々の心配を見透かされていて、私は、そうなんですね、とだけ返した。
部屋に入ると彼は
「ボニただいま〜」
とサークルの中にいるワンちゃんに向かって話しかける。
「おじゃまします」
キャップを脱ぎ髪をわしゃわしゃと雑に整えながら
「洗面所こっち。手洗うでしょ」
おいでおいでと呼ばれる。
手を洗い終えダイニングに戻ると
「コーヒー…はさっき飲んでたもんね。お茶にするか」
彼はお湯を沸かし始めた。
「私のことはお構いなく」
「はは、そんなわけにいかないでしょ。
構うよ。俺がここに招いたんだから」
アイドルのご自宅にお邪魔してしまって恐縮する私に、割といつもの調子で話しかけてくれるのがありがたい。
「喧嘩したんだって？」
座って待つ私の前にお茶の入ったマグカップが置かれた。
「はい…」
「ふーん…青木さんが家飛び出すレベルの喧嘩って結構やばいの？」
「ですね…」
「そっか〜。仲直りはすぐ出来そう？」
「いや〜…なかなか厳しいかも、しれません…」
彼は椅子に深く座り直して腕を組んで私を見る。
本心を探ってくるようだ。
「そんなに
もう全部…ぜんぶ話してしまおうか…
ここまでしてもらってるのに嘘をつくのもどうなのかな。
本当のことを言うか言うまいか迷って唇を噛む。
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作者名：にこ
| 作成日時：2023年11月11日 20時
