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＊＊中島健人目線＊＊
青木さんの席から離れて、会計をしに行く。
「今日の青木さん、なんか変じゃない？」
マスターに尋ねると
「そうなんですよ。旅行って聞いたんですけどね。そうは見えない気がしまして。
亮輔くんとケンカして飛び出してきたのかなと思いました。あ、彼女の恋人なんですけどね」
と言う。
「あのふたりはいつも一緒に出かけてたから、Aちゃんがこんな遅くにひとりでっていうのは珍しいと思いますよ」
「ひとり旅って言ってたの？」
「いや、遅い便で行くって言ってましたけどね」
「俺には友達と待ち合わせて行くって話してたけど？」
「嘘をつかないといけない何かがあったのかもしれませんね」
マスターが心配そうに彼女の背中を見つめる。
不意に彼女がこちらに振り向いて来た。
目が合ったのでにこやかにバイバイと手を振ると、慌てて会釈してまた背を向けて座り直している。
「マスター。彼女が困ってるようだったら俺に連絡くれない？これ俺の番号だから」
そこら辺にあったペーパーナプキンとペンを借りて自分の連絡先をさらさらと書いて渡した。
＊＊
「え？連絡？どういうことですか？どうして中島さんが…？」
「家に帰れないって聞いたから。困ってるかなと思って」
「困ってないですよ。旅行に行くので」
「まだそんなこと言ってる。マスターから全部聞いてるからもう嘘つかなくていいよ。
ほら、とりあえずここ出よ？閉店だし」
マスターの方を見ると、少し申し訳なさそうに眉を下げた。
「青木さんが困ってるようだったら俺に連絡してもらうように頼んでたんだよ。
今夜行くとこないんじゃない？マスターが心配してた」
私、いろんな人に迷惑かけてる…
「すみません。
ビジネスホテルかどこかに行かなきゃと思ってはいたんです」
「その言い方だと行くとこ決まってないんでしょ？今日のところはうち来な？
裏に車停めてる。俺先に乗ってるから、後ろに乗って」
「え、でも…」
「でもはなし！
早く出ないとマスターに迷惑かかるでしょ。いいね？」
「わかりました。すみません…」
有無を言わさぬ形で押し切られて席を立った。
お会計に行くと、中島さんからいただいています、と言われてどこまでも迷惑かけっぱなしだ、と申し訳ない。
＊
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作者名：にこ
| 作成日時：2023年11月11日 20時
