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何をするでもなく、窓の外の夜の景色を眺めていると
「お待たせしました。ホットコーヒーです」
注文したコーヒーが来た。
しかし、そのお待たせしました、の声はおじいちゃんマスターの声ではない。
この喫茶店には不釣り合いな若い男性の声に顔を上げると
「こんばんは。青木さん」
コーヒーカップをふたつ載せたお盆を手に、中島さんが私のテーブルにやって来ていた。
「え？中島さん？」
「ふふ、そうだよ。びっくりした？」
はい、と頷く。
「マスターの声じゃなかったので」
「そっか」
彼は小さく笑いながら
「今さっきここ来たら青木さんが来てるってマスターに教えてもらったの。
それで俺がコーヒーサーブしたいってお願いした」
「そうだったんですね」
「俺ウェイターできそうじゃね？」
「女性客が押し寄せますよ」
「だろうね」
自信満々に言ったあと、自分の言ったことに照れてしまったのか恥ずかしそうに笑っている。
「前座ってもいい？」
「どうぞ」
私のコーヒーと彼自身のコーヒーをテーブルに置き、私の前に座ると彼はふぅ、と息を吐いた。
背もたれに少し背中を預けて寛ぎながら私を見て、そのあと、私の椅子の横に置いてあるキャリーケースを一瞥してまた私に視線を戻す。
「久しぶりだね」
「そうですね。ここで夜ご飯をご一緒して以来、ですよね」
「そうだね。ごめんね、店行けなくて」
「いえいえ。お花は毎日買うものでもないですし」
必要な時にぜひまたお越しください、と言おうとしたが言えなかった。
もう明日から私は、あの店にはいないだろうから。
でも元従業員としてはまたお越しください、ぐらい言うべきだったかな、と考え直し
「えっと…またライブに行かれる時に花束がご入用でしたらぜひ越しください。お待ちしてます」
花屋の店員らしく、そう言い添えた。
そうだね、と彼は頷いてカップに口をつける。
「今日はお仕事をしにここへ？」
テーブルの脇に置かれた書類を見て聞く。
「うん。台本覚えたくて。最近夜によく来てるんだ」
「そうだったんですね」
「でも俺たち夜にここでばったり会ったことはないね？」
「はい」
「青木さんが夜にここに来てるの、珍しいんじゃない？」
「たしかにそうですね」
「今夜はどうして？
青木さんは夜ご飯は仲良く彼氏と過ごしてそうなんだけど。俺の勝手なイメージね？」
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作者名：にこ
| 作成日時：2023年11月11日 20時
