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「いつもありがとうございます」
「こちらこそいつも利用させてもらってます。
後輩とか同期とかのライブのお祝い用に買いに来てまして」
「そうでしたか」
店員がレジスターの前に立ち値段を告げる。
花代を支払い終わると
「今日はいつも接客してる者がいなくてすみません」
俺と目を合わせず、今買った花を紙袋に入れてくれながらそう言われた。
「それは全然。どなたに接客して頂いても構いません。
この店の雰囲気と品揃えが気に入ってるので」
「はは…それほんとですか？」
どことなく嘲笑している様子があった。
まじまじとその店員の顔を見ると
「あなたみたいなモテる芸能人が、うちのに声かける必要、ないでしょ」
声色と表情、先ほどの歓迎されない笑い方で瞬時に状況を理解した。
「すみません。そういうつもりはありませんでした。
不安にさせてしまったのなら謝ります。申し訳ないです。
おふたりはその…ご夫婦で？」
「いや、結婚はしてないですけど。付き合って長いので」
「そうでしたか。すみません。ほんとにそんなつもりじゃなくてここに揃えてある花が好きだったので買いに来てました」
そういうつもりではないのだときちんと話せばわかってくれたのか、彼の敵意が緩まった。
「いえ、俺も…こんなこと言ってすみませんでした。お客様なのに。
ただ中島さんはかっこいいから心配で…
またよければご来店ください。お待ちしております」
「また来てもいいんですか？」
「それはもちろんです」
バツが悪そうな顔をしていた。
「じゃあまた来ますね。その時はぜひお兄さんが接客してください」
「そう言われると俺がすごい心の狭いやつみたいじゃないですか」
「そんなことないです。逆の立場なら、きっと俺も牽制してたと思うし。
これからもふたり仲良く頑張ってください」
「はい。ありがとうございます」
最後は誤解も解けて和やかに終わった。
だけど今後は気安く彼女に近づくのはやめておこう。
リスクが大きすぎる。
アイドルが一般人の女性をめぐってトラブルなんてシャレにならない。
そう思っていたのだが、あのあとしばらくしたある日、彼女の方から誘われてしまって、この前ご馳走になった分を返したかった俺は、今回で最後だと自分に言い聞かせながら例の喫茶店で彼女と待ち合わせていた。
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作者名：にこ
| 作成日時：2023年11月11日 20時
