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お帰りだろうと思い見送りに入口まで来ていたのだが、
「あ。なんか買わないとだよな」
と彼は思い出したように言い踵を返す。
「いえいえ、いいですよ。いつも買っていただいてるので」
そう言ったのだが
「そういうわけにはいかねーじゃん。うーん、何買おっかな」
と花を選び始めてしまった。
店内を歩きまわる彼のそばを私もなんとなく付いて回り、ある鉢植えの前で彼が立ち止まったので私も止まる。
「青木さんが家でも花を育てる人なら俺はあなたにこのプランターの花を贈りたいね」
彼の視線の先にあったのはブーゲンビリアだった。
「え…どうしてこの花を？」
「俺が青木さんにこの花言葉を贈りたいから、かな」
プランターに刺さった手書きポップには
【ブーゲンビリア 花言葉:あなたは素敵】
と書かれていた。
「…中島さん、あんまり一般人をからかうの、良くないですよ。でも、ありがとうございます」
お礼は言っておいた。
彼氏がいてよかったなと思った。そうじゃなければ、アイドル中島健人にご執心するところだ。
「えぇ〜からかってないのに！」
私の返事に彼は楽しそうに笑う。
「でもプランターの花を買うのはさすがにあれだからやっぱ薔薇にしようかな。これ、5本ください」
この人と会話してると、いちいちこちらが喜ぶようなことを言ってくるから、時折反応に困ってしまう。
さっきの友人発言もそうだけど。
彼の選んだ赤い薔薇をラッピングして、お買い上げありがとうございます、と彼に渡したが
「はい、どうぞ。これあなたに」
と逆にプレゼントされてしまった。
「そんな。頂けません」
「なんで？俺が買ったものをどうしようと俺の自由でしょ？
家に飾らないのに渡すのは申し訳ないなとは思うけど、たまに飾るのもだめかな？」
そんなきゅるきゅるした目で見つめられたら、受け取れません！って言えなくなっちゃう。
「そんなアレンジしなくて花瓶に挿すだけでも美しいと思うよ？」
「じゃあ…ありがとうございます。お部屋に飾りますね」
自分の作った薔薇のブーケを彼から受け取る。
「うん。そうしてくれたら嬉しい。じゃ、また来るね」
薔薇の花束もらっちゃった…
彼の出て行った扉をしばらく見つめてしまった。
ほんと、王子さまみたいな人だ。
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作者名：にこ
| 作成日時：2023年11月11日 20時
